【労働】 大阪地方裁判所判決 令和3年1月29日
注目すべき争点
- 本件解雇の有効性
- 本件筆写指示の不法行為性(=4日間、手書きで306枚の筆写作業)
<労働契約法>
第16条(解雇)解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。
第3条(労働契約の原則)
5 労働者及び使用者は、労働契約に基づく権利の行使に当たっては、それを濫用することがあってはならない。
規範・あてはめ
- 本件解雇の有効性
- 原告が平成25年6月から平成26年5月にかけてグループウェア上に行った多数の書き込み(=「寝坊しなければ出勤」、「帰省 関東で就活」、「会社に来たくないから休み」、「交通費不足の為出勤不可。欠勤」、「出勤 仕事が嫌いでさっさと帰る」、「ある上司が嫌いなので、一人ストライキ」、「就活 Yのような残虐非道でないところを探す。」、「交通費節約の為、有休(普通の会社は休みYは狂っている)」、「欠勤?出勤?」等)は、被告への反抗の態度や勤務意欲の欠如を示す不適切な内容というべきものであり、グループウェアの使用目的からすれば、被告の業務に支障を生じさせかねないものであったといえる。しかも、原告は、3度にわたり文書で注意ないし警告を受けていながら、反省・改善の意思を示さず、むしろ反発する態度を示しているのであって、その結果、平成27年1月15日に譴責の懲戒処分を受けたものである。
- それにもかかわらず、原告は、その後も、平成27年11月16日の部内連絡会のスピーチにおいて勤務意欲を欠く内容の発言を行い(=「勤務しているのは会社を辞めるまでの時間つぶし」との趣旨の発言)、同年10月6日から平成28年3月にかけて被告敷地内で勤務中にパンダの縫いぐるみや被り物を着用し、これに対する被告の注意指導に抗議を行い、平成29年7月から平成31年3月までの間にも、仮入門証、定期健康診断問診票、給与所得者の扶養控除等申告書及び年次休暇届にそれぞれ不適切かつ非常識な多数の記載をして提出することを繰り返していたのであるが(=仮入門証の所属欄に、「アホぶちょーがいるけんかい」、「ボケのけんかい」、「部長がやくたたずなけんかい」、「ブチョーボケなけんかい」、「ボケブチョーのいるけんかい」、「ぶちょうつかえないけんかい」と記載;定期健康診断問診票の病名欄に「社会不適応症候群」、「物質(パンダちゃん)依存症」、発症年齢欄に「0(歳)」等と記載;扶養控除等申告書の源泉控除対象配偶者欄に「X1ヨメ」,16歳未満の扶養親族欄に「Ⅹ1パンダ」、「Ⅹ1ラスカル」等と記載)、これらの一連の行動や対応を行う業務上の必要性や合理性はおよそ見いだし難い。
- このような経過の末、原告は、平成31年4月11日のフィードバック面談において人事評価に不満を抱き、事実上の最低評価であるD評価が目標であり、設計業務に必要なCADの操作方法が分からなくなったと述べて、勤務意欲の喪失を明らかにするとともに、同月12日及び15日には指示された業務を行わなかった上、同月15日及び17日に2件の事故を起こし、被告に対し不自然・不合理な言い分を述べるなどしていたものである。これらのことからすると、仮に原告が指摘するように同月16日及び17日には従来の設計業務に従事したことがあったとしても、同日の時点においては、客観的にみても、原告によって本来の担当業務が正常に遂行・継続されることは、もはや期待し難い状態となっていたというべきである。
- 原告は平成27年1月15日に譴責の懲戒処分を受けていながら、以後も目立った反省や改善が見られず、かえって被告に対する反発や勤務意欲の低下を示す行動等を繰り返していたものであり、更なる段階的な懲戒処分によって原告の勤務成績等が改善した可能性が明らかであったとは認め難く、被告が原告に対して与えた反省の機会が不十分であったとも認められない。
- 原告の懲戒処分歴、これを含めた被告の注意・指導に対する原告の反省・改善の欠如、一連の原告の言動から窺われる被告への反発や勤務意欲の低下・喪失及びその顕在化の程度及び態様等を併せ鑑みれば、(中略)被告が、原告について、勤務成績又は業務能率が著しく不良で技能発達の見込みがなく、他の職務にも転換できない等、就業に適さない、あるいはこれに準ずるものとしてした本件解雇には、客観的に合理的な理由があり、かつ、社会通念上も相当なものであったと認められる。よって、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認及び民法536条2項に基づく賃金の支払の原告の各請求は、いずれも理由がない。
- 本件筆写指示の不法行為性
- 本件筆写指示が、原告の本来の担当業務ではなく、単純な筆写作業のみを命じたものであること、原告が4日間にわたり手書きで筆写作業を行い、作成した紙面の枚数が合計306枚に上っていることは、原告の指摘するとおり。
- しかし、その一方で、被告が本件筆写指示を行うに至った経過として、原告が、同年4月11日のフィードバック面談において人事評価に不満を抱き、事実上の最低評価であるD評価が目標であり、設計業務に必要なCADの操作方法が分からなくなったと述べて、勤務意欲の喪失を明らかにするとともに、同月12日及び15日には指示された業務を行わなかったこと、さらに、同月15日及び17日に2件の事故を起こし、被告に対して不自然・不合理な言い分を述べるなどしていたこと、同月17日の事故後、F課長が原告に対して安全作業心得の内容を知っているかを尋ねたところ、原告は知らない旨答えたこと、以上の事情が認められる。
- このような経過及び事情に照らせば、原告が指摘するように同月16日及び17日には従来の設計業務に従事したことがあったとしても、同日以降、原告によって本来の業務が正常に遂行・継続されることは期待し難く、また、被告としては、(中略)原告が不注意等により更なる事故を起こす危険性は否定できない状況にあったということができる。そうすると、このような状況下において、被告が原告に対して安全作業心得の筆写を指示したことについては、相応の業務上の必要性及び合理性が認められる。また、このことに加えて、原告の述べる手の怪我が筆写作業に困難を来す状態であることが明らかであったとは認められず、筆写作業に時間的制約を課したものでもなかったことを踏まえると、同指示が相当性を欠くものであったとまではいえない。
- 被告による本件筆写指示が、業務命令権を逸脱・濫用した違法なものであったと評価することはできない。
担当裁判官
大和隆之裁判官
判決掲載媒体
労働判例1299号64頁
顧問契約に関するご相談は、宮武国際法律事務所までどうぞ
宮武国際法律事務所は、企業からの相談・依頼のみを承る、さいたま市大宮区所在の法律事務所です。企業からの労働紛争に関する相談・依頼も多数承っています。
顧問契約は、宮武国際法律事務所までどうぞ。筆者の経歴はこちらから確認できます。顧問契約に関するお問い合わせは、こちらからお願いします。なお、このウェブサイトは、宮武国際法律事務所の「顧問契約」に特化したものです。宮武国際法律事務所の全般的な情報を記載した「コーポレートサイト」は、以下のボタンより移動できます。