【労働】 東京地方裁判所判決 令和4年4月28日
注目すべき争点
被告による原告の人事評価には、Aと評価すべき項目をBと評価した違法があるかどうか。
規範・あてはめ
- 使用者が労働者に対して行う人事評価は、事業を遂行する責任を担う使用者が、上記責任者としての権限に基づき行うものであるから、国籍差別、男女差別、組合差別などを禁止する強行法規(労働基準法3条、4条、労働組合法7条、雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律6条1号、9条3項など)に違反したり、労働契約の内容(就業規則で定めた人事評価の定めを含む。)に反することはできないが、その内容の決定については、使用者の裁量的な判断に委ねられており、人事評価の適法性が争われた場合、使用者の裁量的な判断は尊重されるべきであり、その判断が上記の強行法規に反する場合や、就業規則などの労働契約の定めに照らして、是認される範囲を超え、著しく不合理であって濫用にわたると認められる場合でない限り、違法となることはないと解される。
- 他方、人事評価が、上記の強行法規に反する場合、又は、就業規則などの労働契約上の定めに照らして、是認される範囲を超え、著しく不合理であって濫用にわたると認められる場合には、違法となるものと解される。
- 本件で原告が違法である旨主張している人事評価には、上記の強行法規に違反する点は認められないし、原告も、強行法規違反は問題としていない。
- 原告が違法である旨主張している人事評価①から⑥までは、被告がその機関別(労働者の配属先)に配算した本件手当の原資を労働者に本件手当として配分する評価点を決めるための人事評価であるから、事業遂行責任を担う使用者の裁量的判断が妥当する分野であるといえる。本件手当の評価点を決めるための人事評価は、就業規則の一部を構成している本件給与規程に評価点の基準が定められていることからすれば、人事評価①から⑥までは、本件給与規程の評価点の定めに照らして、是認される範囲を超え、著しく不合理であって濫用にわたると認められる場合に限り、違法となると解される。
- 本件給与規程の評価点の定めには、「創意・工夫・提言」の項目では、郵便局支援の実効を上げるため、創意・工夫として施策を立案・実施し、受持ち郵便局の実績向上に貢献した場合にはA、施策を実施したが、効果は不十分である場合にはB、施策を実施していない場合にはCとすることとされている。
- 原告は、平成29年頃以降、モニタリング進捗管理ツール、日銀受託件数一覧表ツール及びその他のモニタリング業務を効率化するパソコンツールを作製し、これを同僚に提供していた事実が認められるところ、これについては、原告が郵便局支援であるモニタリング業務の効率化のための創意・工夫を立案・実施したと評価することができる。
- しかし、これらのパソコンツールは、主としてモニタリング担当社員の業務効率化に寄与するものであって、直ちに、受持ち郵便局の実績向上に貢献するというものではないから、前記のツールの立案・実施をもって、直ちに、受持ち郵便局の実績向上に貢献したと認めることはできない。
- 原告の提供したモニタリング進捗管理ツールは、一部の者が活用しているものの、利用しなくても業務に支障がなく、メンテナンスのために人員配置を要するなどの労力も必要であって、様々な社員が活用できるものといえず、また、原告が作製したその他のツールも有用性が高いとまではいえなかった。
- 被告が、「創意・工夫・提言」の項目につき原告をAと評価せず、Bと評価したことが、本件給与規程の評価点の定めに照らして、是認される範囲を超え、著しく不合理であって濫用にわたるとまでは認められない。
担当裁判官
伊藤由紀子裁判官、根本宜之裁判官、舘洋一郎裁判官
判決掲載媒体
労働判例1298号70頁
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