【労働】 東京地方裁判所判決 令和3年6月16日
注目する争点
原告と被告の有期労働契約は、労働契約法19条2号に基づき、更新されるか。
労働契約法
第十九条(有期労働契約の更新等) 有期労働契約であって次の各号のいずれかに該当するものの契約期間が満了する日までの間に労働者が当該有期労働契約の更新の申込みをした場合又は当該契約期間の満了後遅滞なく有期労働契約の締結の申込みをした場合であって、使用者が当該申込みを拒絶することが、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、使用者は、従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で当該申込みを承諾したものとみなす。
一 当該有期労働契約が過去に反復して更新されたことがあるものであって、その契約期間の満了時に当該有期労働契約を更新しないことにより当該有期労働契約を終了させることが、期間の定めのない労働契約を締結している労働者に解雇の意思表示をすることにより当該期間の定めのない労働契約を終了させることと社会通念上同視できると認められること。
二 当該労働者において当該有期労働契約の契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものであると認められること。
事案の要旨・当事者等
事案の要旨
- 本件は、被告との間で、平成25年9月4日に、期間を同年10月1日から平成26年3月31日までとして有期労働契約を締結し、その後同契約を4回更新された後、4回目の更新期間満了時(平成30年3月31日)に被告から雇止めされた原告が、
- 原告には労働契約法19条2号の有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的理由があり、かつ、当該雇止めは客観的に合理的理由を欠き、社会通念上相当であるとは認められないため、従前の有期労働契約の内容で契約が更新され、平成31年3月31日に退職したことから同日に同契約が終了したと主張して、
- 被告に対し、同契約に基づき、平成30年4月分から平成31年3月分までの賃金、並び、これに対する遅延損害金(平成29年法律第45号による改正前商法、及び、賃金の支払の確保等に関する法律6条1)の支払を求めた事案である。
当事者等
- 被告は、電気通信事業に係わる各種受託業務、テレマーケティングに関する業務等を行うことを目的とする株式会社であり、株式会社Aが100パーセント出資している同社のグループ会社である。被告の従業員数は、平成30年3月末時点で1052名であり、売上高は、平成29年度の実績では347億円である。
- 原告は、障害者雇用枠で被告に採用された者であり、被告との間で、有期労働契約を締結し、被告の研修センターや監査部における業務に従事していた者である。
規範・あてはめ
- 原告は、本件契約が労働契約法19条により更新されたものとみなされた旨主張するため、まず、原告が、平成30年3月31日の本件契約の満了時点で、本件契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があると認められるか(同条2号該当性)について検討する。
- 労働契約法19条2号における有期労働契約が更新されるものと期待することについての合理的理由の存否は、当該雇用の臨時性・常用性、更新の回数、雇用の通算期間、契約期間管理の状況、他の有期労働契約の更新状況、雇用継続の期待をもたせる使用者の言動の有無等を総合考慮して決すべきものと解される。
- 【就業規則・運用】 被告においては、有期契約労働者である契約社員等の契約期間は、平成20年12月1日以降、原則4月1日から翌年3月31日までの1年間であり、契約の更新回数の上限は4回、1年ごとの雇用契約で、契約期間は最長で5年間として運用されており、契約社員等の就業規則においても、契約社員等の契約の更新回数の上限は4回であり、契約期間は最長で5年間である旨明記されていることが認められる。
- 被告においては、雇用制度の改定が行われ、平成26年4月1日以降は、新雇用制度が導入されているが、同制度においても、有期契約労働者である有期社員の契約の更新回数の上限は4回であり、契約期間は最長で5年間とされ、有期社員の就業規則にも同旨の規定が置かれた上、旧雇用制度の有期契約労働者である契約社員等から有期社員に雇用替えした場合には、旧雇用制度の各雇用区分における従前の雇用期間を含め、通算して、契約の更新回数は最大で4回、契約期間は最長で5年間とされ、これまで運用されていることが認められる。
- 【選考試験】 また、被告においては、旧雇用制度下では、契約社員は、4年目又は5年目に、正社員又はスタッフ社員の採用募集に応募することが可能であり、その選考試験に合格すれば正社員又はスタッフ社員として採用され、新雇用制度下でも、有期社員は、4年目又は5年目に、エリア基幹職社員の採用募集に応募することが可能であり、選考試験に合格すれば同社員として採用されるところ、被告における有期契約労働者から無期契約労働者への採用率(合格率)は、年度によって異なるものの、旧雇用制度下では、おおむね15パーセント程度、新雇用制度下では、おおむね40パーセント弱から50パーセント程度であると認められる。
- 一方で、上記各採用募集の選考試験に合格することなく更新限度回数に達した又は契約期間が5年に達した有期契約労働者は、期間満了により被告に雇止めされており、その数は年度によって異なるが、相当数に上ることが認められる。
- 【被告制度のまとめ】 被告の雇用制度においては、有期契約労働者は、無期契約労働者の登用試験に合格しない限りは、有期契約労働者として5年(更新限度回数4回)を超える長期間の雇用を継続していくことは予定されていないものといえる。
- 【契約締結経過】 原告と被告との間の本件契約の締結に至るまでの経過や被告の契約期間管理に関する状況等からすれば、原告は、被告に採用された当初から、本件契約の更新限度回数は最大で4回であることを認識した上で本件契約を締結しており、その認識のとおり、本件契約が更新されていったものといえるから、原告において、本件契約が、更新限度回数4回を越えて、更に更新されるものと期待するような状況にあったとはいえない。
- 【結論】 以上によれば、原告が、平成30年3月31日の本件契約の満了時点で、本件契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるとは認められない。したがって、原告の請求は、本件雇止めに客観的合理的理由がありかつ社会通念上相当と認められるか否かという点について判断するまでもなく、労働契約法19条2号により、原告による本件契約の更新の申込みを被告が承諾したものとみなされる余地はない。
担当裁判官
天田愛美裁判官
判決掲載媒体
労働判例1315号85頁、判例秘書(L07630553)
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