【商標】 知的財産高等裁判所判決 令和4年12月26日
注目する争点
- 引用商標は、商標法4条1項6号の「著名なもの」に該当するか
- 本件商標は、引用商標と類似するか
事案の要旨・背景事情
本件商標
- 原告は、以下の商標(登録第6323630号、本件商標)の商標権者である。
商標 欧文字「OLYMBEER」(上段)とそれよりやや小さい仮名文字「オリンビアー」(下段)を二段に書したもの
登録出願日 令和2年11月11日
設定登録日 令和2年12月2日
指定商品 第32類「ビール、清涼飲料、果実飲料、飲料用野菜ジュース、ビール製造用ホップエキス、乳性飲料」
- 特許庁は、令和4年5月24日、「登録第6323630号商標の商標登録を取り消す。」との取消決定(本件取消決定)をし、その謄本は、同年6月2日、原告に送達された。
- 本件取消決定の理由の要旨は、以下のとおりである。
- 【著名性】 引用標章は、申立人に係る公益に関する事業であって営利を目的としない事業である「オリンピック(OLYMPIC)」及び「オリンピック競技大会」を表象するものとして、本件商標の登録出願時には、我が国はもとより世界的に著名になっていたものと認められるものであり、かつ、その状態は本号該当性の判断時期であるその登録査定時においても継続していた。
- 【観念】 本件商標は、「OLYMBEER」の欧文字及び欧文字よりやや小さい「オリンビアー」の片仮名を二段に書してなるものであるところ、その構成文字に相応して、「オリンビアー」の称呼を生じ、また、当該文字は全体として一種の造語と認められ、特定の観念を生じない。
- 【称呼】 引用標章は、「OLYMPIAD」の欧文字及び「オリンピアード」の片仮名からなるところ、その構成文字に相応して「オリンピアード」の称呼が生じる。
- 【外観】 本件商標と引用標章は、外観においては、語頭から後半部分にかけて「OLYM」、「オリン」及び「アー」の文字を共通とするところ、このような文字部分は、看者の注意をより強く引きつけるものであること、かつ、中間の「ビ」と「ピ」の片仮名部分も、同じ「ヒ」の文字に濁点が付されているか、半濁点が付されているかの差にすぎないことから、両者は外観上、一定の類似性を有する。
- 【称呼】 本件商標から生じる「オリンビアー」の称呼は、引用標章から生じる「オリンピアード」の称呼とは、より強く発音される語頭三音「オリン」と「アー」の五音を共通にするものであり、差異音は中間における「ビ」と「ピ」の濁音と半濁音の微差と、語尾の「ド」の音の有無であって、これらを一連に称呼するときには聴取し難く、両者の称呼上の類似性は高い。
- 【観念】 本件商標は、一種の造語ではあるものの、その構成文字は、上記した外観の共通性及び称呼の類似性に鑑みれば、「オリンピック(OLYMPIC)」、「オリンピック競技大会」ないし「国際オリンピック大会」の観念を生じる引用標章を想起させる場合があって、両者は、観念において近似した印象を有する。
- よって、本件商標と引用標章とは、外観において共通性を有し、称呼の類似性は高く、観念において近似した印象を有するものであり、商標法4条1項6号が同号に掲げる団体の公共性に鑑み、その権威を尊重するとともに、出所の混同を防いで需要者の利益を保護するとする趣旨を踏まえて総合的に判断すれば、両者は、相紛らわしい類似する商標というのが相当である。
- 原告は、令和4年7月2日、本件取消決定の取消しを求める本件訴訟を提起した。
規範・あてはめ
争点1(引用商標は、商標法4条1項6号の「著名なもの」に該当するか)について
- 商標法4条1項6号は、同号に掲げる団体等の公共性に鑑み、その信用を尊重するとともに、出所の混同を防いで取引者、需要者の利益を保護することに趣旨があり、そこでいう著名性は、同号所定の標章が、指定商品の取引者、需要者の間に広く認識されていることを要するものというべきである。
- 引用標章は、関係者や識者等の間では著名なものであると認められるが、それを超えて、本件商標の設定登録日において、商標法4条1項6号が規定する著名性を有する、すなわち本件商標の指定商品の取引者、需要者の間で広く認識されているものであると認めることについては、疑義も残るといわざるを得ず、少なくとも他の商標との類似性の判断において、著名性が高いことを前提にすることは相当でないというべきである。
商標法
第四条(商標登録を受けることができない商標) 次に掲げる商標については、前条の規定にかかわらず、商標登録を受けることができない。
六 国若しくは地方公共団体若しくはこれらの機関、公益に関する団体であつて営利を目的としないもの又は公益に関する事業であつて営利を目的としないものを表示する標章であつて著名なものと同一又は類似の商標
争点2(本件商標は、引用商標と類似するか)について
- 【外観】 本件商標は、「OLYMBEER」の欧文字と「オリンビアー」の片仮名を2段に表示してなるものである。引用標章は、「OLYMPIAD」の欧文字又は「オリンピアード」の片仮名である。
- 本件商標と引用標章は、2段か1段かという点において異なる。また、欧文字同士、片仮名部分同士を比較しても、欧文字部分では8文字中冒頭の4文字が共通するのみであり、片仮名部分では本件商標が6文字、引用標章が7文字であり、冒頭の「オリン」と、5文字目・6文字目の「アー」が共通するが、これらの文字の間に、本件商標では濁点を付した「ビ」が、引用標章では半濁点を付した「ピ」がある上、引用商標では語末に濁点を付した「ド」があるという点で相違する。以上によれば、本件商標と引用標章は、外観において相紛れるおそれはない。
- 【称呼】 本件商標は、欧文字と片仮名が2段となっており、片仮名部分が欧文字部分の読み仮名となっていると理解されることから、「オリンビアー」の称呼を生じる。引用標章からは「オリンピアード」の称呼を生じる。
- 両者は、「オリン」の部分と「アー」の部分を共通にするものの、両者の間に本件商標では濁音「ビ」が、引用標章では半濁音「ピ」があり、さらに、語末が、本件商標が長く伸びる母音で終わるのに対し、引用標章が濁音の「ド」で終わるという点で相違する。以上によれば、本件商標と引用標章は、称呼において相紛れるおそれはない。
- 【観念】 本件商標は、辞書に記載されておらず、造語と認められ、特定の観念を生じない。引用標章は、辞書に記載されている「オリュンピア紀」、「国際オリンピック競技大会」の観念を生じる。そうすると、両者は観念において比較できない。
- 【結論】 本件商標の指定商品の需要者と、引用標章が使用されるオリンピック競技大会に関心を有する者とは、一般的な消費者ないし国民であるという意味で共通性を有するが、前記アないしウのとおり、本件商標と引用標章は外観及び称呼において相紛れるおそれがなく、観念において比較できないのであるから、両者は類似しないものというべきである。
担当裁判官
菅野雅之裁判官、本吉弘行裁判官、岡山忠広裁判官
判決掲載媒体
ジュリスト1586号8頁、判例秘書(L07720478)
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