【独禁】 東京高等裁判所判決 令和5年5月26日
注目する争点
- 原告は、納入業者69社(=原告の運営に係る店舗において、自ら販売する商品を、原告に直接販売して納入する事業者)に対して「優越的地位」を有しているか
- 本件各行為(=本件従業員等派遣、本件協賛金の提供、及び、本件火災関連金の提供を受けた行為)は、原告が「正常な商慣習に照らして不当に」独占禁止法2条9項5号ロ所定の行為(不利益行為)をしたものといえるか
- 本件各行為は、優越的地位を「利用して」されたものといえるか否か(因果関係の有無)
- 本件排除措置命令に関する本件審決に平成25年法律第100号による改正前の独禁法82条1項各号所定の取消事由があるか
- 課徴金算定に係る独占禁止法20条の6の解釈適用の相当性〔課徴金算定の基礎〕
事案の要旨・背景事情
事案の要旨
- 原告は、被告が平成26年6月5日に原告に対してした排除措置命令(公正取引委員会平成26年(措)第10号。本件排除措置命令)及び課徴金納付命令(公正取引委員会平成26年(納)第113号。本件課徴金納付命令。本件排除措置命令と併せて本件各命令)について、同月6日、それぞれその全部の取消しを求める審判請求をし(公正取引委員会平成26年(判)第1号事件及び第2号事件。当該各事件を併せて本件審判事件)、被告は、令和2年3月25日、本件排除措置命令を変更し、本件課徴金納付命令を一部取り消す旨の審決(本件審決)をした。
- 本件は、原告が、本件審決について、原告の審判請求を棄却した部分につき私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(平成25年法律第100号による改正前のもの)82条1項各号所定の取消事由がある旨を主張して、同項に基づき、その取消しを求める事案である。
原告
- 原告は、佐賀市に本店を置き、食料品、酒類、日用雑貨品、家庭用電気製品、衣料品等を小売する総合ディスカウントストアの形態を有する「△△」と称する店舗等を運営する「事業者」(独占禁止法2条1項)である。
- 原告の資本金の額は、平成21年6月28日から平成24年12月16日までの期間(本件期間)において、33億6945万円であった。
- 原告の運営に係る店舗は、平成21年6月28日時点で128店、平成22年3月31日時点で134店、平成23年3月31日時点で143店、平成24年3月31日時点で156店、同年12月17日時点で168店と年々増加しており、その運営区域は、九州全県(沖縄県を含む。)、徳島県、香川県、愛媛県、広島県、岡山県、山口県、埼玉県及び山梨県であった。
- 原告の事業年度における売上高は、平成21年度で約944億円、平成22年度で約961億円、平成23年度で約1058億円、平成24年度で約1138億円と年々増加していた。原告の各事業年度の売上高は、総合ディスカウント業を営む者の全国における売上高の順位において、平成21年度及び平成22年度は第5位、平成23年度及び平成24年度は第4位であった。
規範・あてはめ
争点1(優越的地位該当性)について
- 独占禁止法は、
- 不公正な取引方法等を禁止し、事業活動の不当な拘束を排除することにより、公正かつ自由な競争を促進するなどし、もって、一般消費者の利益を確保するとともに、国民経済の民主的で健全な発達を促進することを目的とし(同法1条)、
- 同法19条は、「事業者は、不公正な取引方法を用いてはならない。」と定め、
- 同法2条9項5号ロは、不公正な取引方法のうち「自己の取引上の地位が相手方に優越していることを利用して正常な商慣習に照らして不当に、次のいずれかに該当する行為をすること」について、当該行為の一として、「継続して取引する相手方(新たに継続して取引しようとする相手方を含む。)に対して、自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させること」を定める。
- これは、自己の取引上の地位が相手方に優越している一方の当事者が、取引の相手方に対しその地位を利用して正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えることは、当該取引の相手方の自由かつ自主的な判断による取引を阻害するとともに、当該取引の相手方はその競争者との関係において競争上不利となる一方で、行為者はその競争者との関係において競争上有利となるおそれがあり、このような行為は公正な競争を阻害するおそれがあるということができるからであると解される(優越的地位の濫用行為に関する独占禁止法の考え方〔ガイドライン〕第1の1参照)。
- 前記に記載した独占禁止法の趣旨に照らせば、例えば、
- 乙の甲に対する取引依存度が大きい場合には、乙は甲と取引を行う必要性が高くなるため、乙にとって甲との取引の継続が困難になることが事業経営上大きな支障を来すことになりやすく(ガイドライン第2の2(1)参照)、
- 甲の市場におけるシェアが大きい場合、又は、その順位が高い場合には、甲と取引することで乙の取引数量や取引額の増加を期待することができ、乙は甲と取引を行う必要性が高くなるため、乙にとって甲との取引の継続が困難になることが、事業経営上大きな支障を来すことになりやすく(同(2)参照)、
- 乙が他の事業者との取引を開始し若しくは拡大することが困難である場合、又は、甲との取引に関連して多額の投資を行っている場合には、乙は甲と取引を行う必要性が高くなるため、乙にとって甲との取引の継続が困難になることが事業経営上大きな支障を来すことになりやすく(同(3)参照)、また、
- 甲との取引の額が大きく、甲の事業規模が拡大しており、甲と取引することで乙の取り扱う商品又は役務の信用が向上し、又は甲の事業規模が乙のそれよりも著しく大きい場合には、乙は甲と取引を行う必要性が高くなるため、乙にとって甲との取引の継続が困難になることが、事業経営上大きな支障を来すことになりやすいものということができる(同(4)参照)。
- このような事情を考慮すると、独占禁止法2条9項5号所定の「自己の取引上の地位が相手方に優越していること」(優越的地位)に関し、行為者につき取引の相手方に対してその取引上の地位が優越しているというためには、
- 行為者が市場支配的な地位、又は、それに準ずる絶対的に優越した地位にある必要はなく、取引の相手方との関係で相対的に優越した地位にあれば足りるものと解され、
- また、優越した地位にあるとは、
- 取引の相手方にとって行為者との取引の継続が困難になることが事業経営上大きな支障を来すため、行為者が取引の相手方にとって著しく不利益な要請等を行っても、取引の相手方がこれを受け入れざるを得ないような場合をいうものと解される(ガイドライン第2の1参照)。
- そして、これらの観点から優越的地位の該当性についての判断をするに当たっては、
- ①行為者の市場における地位、②当該取引の相手方の行為者に対する取引依存度、③当該取引の相手方にとっての取引先変更の可能性、④その他行為者と取引することの必要性、重要性を示す具体的な事実(行為者との取引額、行為者の今後の成長可能性、取引の対象となる商品・役務を取り扱うことの重要性、事業規模の相違等)を総合的に考慮するのが相当である。
- なお、取引関係にある当事者間の取引を巡る具体的な経緯や態様には、当事者間の相対的な力関係が如実に反映されることが少なくないから、実際に取引の相手方が行為者による客観的に不利益な行為を受け入れている場合には、これを受け入れるに至った経緯や態様等を総合的に勘案して、行為者の優越的地位該当性を判断することが合理的であるといえる。
- 【結論】 特定納入業者(69社)については、いずれも、本件期間中、原告との取引の継続が困難となることがその事業経営上大きな支障を来すため、原告が当該納入業者にとって著しく不利益な要請等を行っても、これを受け入れざるを得ないような場合にあったものと認めるのが相当であり、したがって、原告の取引上の地位が特定納入業者に対して優越していたものと認めることができる。
争点2(本件各行為〔=本件従業員等派遣、本件協賛金の提供、及び、本件火災関連金の提供を受けた行為)は、原告が「正常な商慣習に照らして不当に」独占禁止法2条9項5号ロ所定の行為〔不利益行為〕をしたものといえるか)について
- 独占禁止法2条9項5号ロは、同法19条により禁止される「不公正な取引方法」の一つとして、「自己の取引上の地位が相手方に優越していることを利用して正常な商慣習に照らして不当に」「継続して取引する相手方に対して、自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させること」を定めるところ、
- こうした行為が不公正な取引方法とされたのは、このような行為は、当該取引の相手方の自由かつ自主的な判断による取引を阻害することになる上、
- 当該取引の相手方又は行為者においては、それぞれの競争者との関係で競争上不利又は有利となるおそれがあり、公正な競争秩序に悪影響を及ぼすおそれがあるからであると解される。
- このような趣旨を踏まえれば、同号ロ所定の行為(不利益行為)とは、
- ① 例えば、従業員等の派遣要請に関して、従業員等を派遣する条件等が不明確で、相手方にあらかじめ計算することができない不利益を与える場合はもとより、従業員等を派遣する条件等があらかじめ明確であっても、その派遣等を通じて相手方が得る直接の利益等を勘案して合理的と認められる範囲を超えた負担となり、相手方に不利益を与えることとなる場合、また、
- ② 例えば、協賛金等の支払要請に関して、協賛金等の負担額、算出根拠、使途等が不明確であって、相手方にあらかじめ損益の計算ができない不利益を与えることとなる場合のほか、協賛金等の負担の条件があらかじめ明確であっても、相手方が得る直接の利益等を勘案して合理的と認められる範囲を超えた負担となり、相手方に不利益を与えることとなる場合等を指すものと解するのが相当である。
- 【本件従業員等派遣】 一般的な買取取引においては、売主は、当該買取商品を契約の内容に沿って買主に引き渡すことで義務の履行は完了するはずのものであるから、契約上の権利義務や一般的な商慣習等がない限り、小売業者である買主の新規店舗の開設、既存店舗の改装及びこれらの店舗での開店セール等の際に、買取取引で仕入れた商品を他の陳列棚から移動させ、又は新たに若しくは補充として店舗の陳列棚へ並べるなどの作業は、本来買主において行うべきものということができる。
- そうであれば、買主の要請によって売主が自社の従業員等を派遣して上記のような作業に当たらせることは、売主としては当該従業員等による労務をその派遣の期間逸失することになるほか、交通費等派遣に必要となる費用が発生した場合には当該費用を負担することになることから、売主にとって通常は何ら合理性のないことであり、そのような合理性のない行為は、原則として不利益行為に当たるものと解するのが相当である。
- 【本件協賛金の提供】 買取取引において、契約上の権利義務や一般的な商慣習等がない限り、売主が小売業者である買主に対し協賛金等の名目で買主のために本来提供する必要のない金銭を提供することは、売主にとって何ら合理性のないものであり、そのような行為は、原則として不利益行為に当たるというべきである。
- もっとも、例えば、協賛金等の名目で提供した金銭について、その負担額、算出根拠、使途等について、あらかじめ買主が売主に対して明らかにし、かつ、当該金銭の提供による売主の負担が、その提供を通じて売主が得ることとなる直接の利益等を勘案して合理的な範囲内のものであり、相手方の同意の上で行われる場合等は、そのような金銭の提供行為であっても不利益行為には当たらないという場合もあり得ると解される。
- そうすると、売主が相手方に本来提供する必要のない金銭を提供させる行為については、その不合理性を払拭するような特段の事情(金銭提供例外事由)がない限り、不利益行為に当たるものと認めるのが相当である。
- 【本件火災関連金の提供】 火災により毀損した商品の損失補填を目的とする金銭の提供は、買取取引において、売主が買主のために本来提供する必要のない金銭を提供する行為であり、売主にとっては通常は何ら合理性のないものであることは、本件協賛金の提供の場合と何ら異なることはないというべきであるから、買主がそのような名目で金銭を売主に提供させる行為は、金銭提供例外事由がない限り、不利益行為に当たるものと認めるのが相当である。
- 【結論】 原告が行った本件各行為は、いずれも不利益行為に該当するものと認められる。
争点3(本件各行為は、優越的地位を「利用して」されたものといえるか否か〔因果関係の有無〕)について
- 行為者について、取引の相手方に対してその取引上の地位が優越しているものと認められる場合には、行為者が当該相手方に不利益行為を行えば、通常は、行為者は自己の取引上の地位が相手方に対して優越していることを「利用して」(独占禁止法2条9項5号柱書)これを行ったものと認めるのが相当というべきである。
- そして、原告については、前記のとおり、その取引上の地位が特定納入業者(69社)に対して優越するものと認められるところ、原告は、前記のとおり、特定納入業者に対して不利益行為を行っていたこと(本件従業員等派遣について69社、本件協賛金の提供について58社、本件火災関連金の提供について43社)が認められる。
- 他方、本件において、原告が本件各行為を行ったことについて、自己の取引上の地位が特定納入業者に対して優越していることを「利用して」行われたものであるとはいい難いものとみるべき事情は見当たらない。
- そうであれば、原告が特定納入業者に対して本件各行為を行ったことについては、原告において、自己の取引上の地位が特定納入業者に対して優越していることを「利用して」これを行ったものとみるのが相当である。
争点4(本件排除措置命令に関する本件審決に平成25年法律第100号による改正前の独禁法82条1項各号所定の取消事由があるか)
私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(平成25年法律第100号による改正前のもの)
第82条 (※ 平成25年法律第100号による改正により削除) 裁判所は、公正取引委員会の審決が、次の各号のいずれかに該当する場合には、これを取り消すことができる。
一 審決の基礎となつた事実を立証する実質的な証拠がない場合
二 審決が憲法その他の法令に違反する場合
② 公正取引委員会は、審決(第66条の規定によるものに限る。)の取消しの判決が確定したときは、判決の趣旨に従い、改めて審判請求に対する審決をしなければならない。
第19条 事業者は、不公正な取引方法を用いてはならない。
第20条 前条の規定に違反する行為があるときは、公正取引委員会は、第8章第2節に規定する手続に従い、事業者に対し、当該行為の差止め、契約条項の削除その他当該行為を排除するために必要な措置を命ずることができる。
② 第7条第2項の規定は、前条の規定に違反する行為に準用する。第7条
② 公正取引委員会は、第3条又は前条の規定に違反する行為が既になくなつている場合においても、特に必要があると認めるときは、第8章第2節に規定する手続に従い、次に掲げる者に対し、当該行為が既になくなつている旨の周知措置その他当該行為が排除されたことを確保するために必要な措置を命ずることができる。ただし、当該行為がなくなつた日から7年を経過したときは、この限りでない。
一 当該行為をした事業者
二 当該行為をした事業者が法人である場合において、当該法人が合併により消滅したときにおける合併後存続し、又は合併により設立された法人
三 当該行為をした事業者が法人である場合において、当該法人から分割により当該行為に係る事業の全部又は一部を承継した法人
四 当該行為をした事業者から当該行為に係る事業の全部又は一部を譲り受けた事業者
- 排除措置命令(独占禁止法20条)は、違反行為を排除し、当該違反行為によってもたらされた違法状態を除去し、競争秩序の回復を図るとともに、当該行為の再発を防止することを目的として、作為又は不作為を命じる行政処分であり、そのため、被告においては、違反行為そのものについて排除措置を命じ得るだけではなく、これと同種又は類似の違反行為の行われるおそれがあって、上記目的を達するために現にその必要性のある限り、これらの事実についても相当の措置を命じることができる(同法7条2項参照)。
- 原告は、平成24年12月17日以降、本件各行為を行っていないが、本件各行為がされた期間(本件期間)、原告と特定取引業者との市場における関係、本件各行為の内容や規模、特定納入業者が本件各行為に至る経緯、及び、それに向けた原告の対応等(とりわけ、本件各行為における原告の対応が組織的、主導的であること)の諸事情を考慮すれば、原告については、排除措置命令をするについて「特に必要がある」と認めるのが相当であるから、本件排除措置命令(本件審決後において、なお効力を有するもの)は、独占禁止法20条2項、7条2項1号に反するとはいえず、その他、本件記録上、本件排除措置命令の適法性を疑わせるような事情は見当たらない。
- したがって、本件排除措置命令について本件審決に独占禁止法82条1項各号所定の取消事由がある旨の原告の主張は採用することができない。
争点5(課徴金算定に係る独占禁止法20条の6の解釈適用の相当性〔課徴金算定の基礎〕)について
- 独占禁止法20条の6は、
- 事業者が、同法19条の規定に違反する行為(同法2条9項5号に該当するものであって、継続してするものに限る。)をしたときは、被告は、当該事業者に対し、
- 「当該行為をした日から当該行為がなくなる日までの期間」における
- 「当該行為の相手方との間における政令で定める方法により算定した売上額(当該行為の相手方が複数ある場合は当該行為のそれぞれの相手方との間における政令で定める方法により算定した売上額又は購入額の合計額とする。)に百分の一を乗じて得た額に相当する額」の課徴金の納付を命じなければならないと定める。
私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律
第20条の6(現行法) 事業者が、第19条の規定に違反する行為(第2条第9項第5号に該当するものであつて、継続してするものに限る。)をしたときは、公正取引委員会は、第8章第2節に規定する手続に従い、当該事業者に対し、違反行為期間における、当該違反行為の相手方との間における政令で定める方法により算定した売上額(当該違反行為が商品又は役務の供給を受ける相手方に対するものである場合は当該違反行為の相手方との間における政令で定める方法により算定した購入額とし、当該違反行為の相手方が複数ある場合は当該違反行為のそれぞれの相手方との間における政令で定める方法により算定した売上額又は購入額の合計額とする。)に100分の1を乗じて得た額に相当する額の課徴金を国庫に納付することを命じなければならない。ただし、その額が100万円未満であるときは、その納付を命ずることができない。
第20条の6(平成25年法律第100号による改正前のもの) 事業者が、第19条の規定に違反する行為(第2条第9項第5号に該当するものであつて、継続してするものに限る。)をしたときは、公正取引委員会は、第8章第2節に規定する手続に従い、当該事業者に対し、当該行為をした日から当該行為がなくなる日までの期間(当該期間が3年を超えるときは、当該行為がなくなる日からさかのぼつて3年間とする。)における、当該行為の相手方との間における政令で定める方法により算定した売上額(当該行為が商品又は役務の供給を受ける相手方に対するものである場合は当該行為の相手方との間における政令で定める方法により算定した購入額とし、当該行為の相手方が複数ある場合は当該行為のそれぞれの相手方との間における政令で定める方法により算定した売上額又は購入額の合計額とする。)に100分の1を乗じて得た額に相当する額の課徴金を国庫に納付することを命じなければならない。ただし、その額が100万円未満であるときは、その納付を命ずることができない。
- そこで、本件のように相手方が複数ある場合、違反行為期間である「当該行為をした日から当該行為がなくなる日までの期間」の意義が問題となる。
- この点について、独占禁止法の定めるいわゆるカルテル行為をした事業者に対する課徴金制度(同法7条の2)は、昭和52年法律第63号による改正により、カルテルの摘発に伴う不利益を増大させてその経済的誘因を小さくし、カルテルの予防効果を強化することを目的として、既存の刑事罰の定めやカルテルによる損害を回復するための損害賠償制度に加えて設けられたものであって、カルテル禁止の実効性確保のための行政上の措置として機動的に発動することができるようにしたものであるところ、
- 課徴金の額の算定方式については、実行期間のカルテル対象商品又は役務の売上額に一定率を乗ずる方式を採っているが、これは、課徴金制度が行政上の措置であるため、算定基準も明確なものであることが望ましく、また、制度の積極的かつ効率的な運営により抑止効果を確保するためには算定が容易であることが必要であるからであって、個々の事案ごとに経済的利益を算定することは適切ではないとして、そのような算定方式が採用され、維持されているものと解され、そうであれば、課徴金の額はカルテルによって実際に得られた不当な利得の額と一致しなければならないものではないものと解される(最高裁平成17年9月13日第三小法廷判決・民集59巻7号1950頁参照)ところ、この趣旨は、独占禁止法20条の6に基づく優越的地位の濫用に係る課徴金制度についても、同様に妥当するものと解することができる。
- すなわち、優越的地位の濫用に係る課徴金についても、その摘発に伴う不利益を増大させてその経済的誘因を小さくし、その予防効果を強化することを目的として設けられたものであり、優越的地位の濫用禁止の実効性確保のための行政上の措置として機動的に発動できるようにしたものであって、課徴金の額の算定方式についても、算定基準も明確なものであることが望ましく、また、制度の積極的かつ効率的な運営により抑止効果を確保するためには算定が容易であることが必要であって、個々の事案ごとに経済的利益を算定することは適切ではないということができる。
- このような制度趣旨に鑑みれば、事業者の1個の違反行為(優越的地位の濫用行為)につき相手方が複数ある場合における違反行為期間については、始期である「当該行為をした日」とは、複数の相手方のうちいずれかの相手方に対して最初の当該行為をした日をいい、違反行為期間の終期である「当該行為がなくなる日」とは、複数の相手方の全ての相手方に対して当該行為が行われなくなった日をいうものと一律に解するのが相当である。
- さらに、上記説示した課徴金制度の趣旨に照らせば、同種の優越的地位の濫用行為が複数の相手方に対して行われた場合のみならず、異なる種類の優越的地位の濫用行為が複数の相手方に対して行われた場合についても、それが、組織的かつ計画的に一連のものとして実行されたものと認められるなど、事業者の優越的地位の濫用行為として一体のものであると評価することができる場合には、全体として1個の違反行為がされたものとして、独占禁止法の規定を適用し、一律に違反行為期間を認めるのが相当というべきである。
- これを本件についてみると、本件各行為がされた期間(本件期間)、原告と特定取引業者との市場における関係、本件各行為の内容や規模、特定納入業者が本件各行為に至る経緯、及び、それに向けた原告の対応等の諸事情に照らせば、原告は、自らの利益を確保することなどを目的として、役員等の指揮ないし関与の下、組織的かつ計画的に一連のものとして本件各行為を行ったものと認めることができるから、これらは、事業者の優越的地位の濫用行為として一体ものであると評価することができる場合に該当し、全体として1個の違反行為がされたものとして、独占禁止法の規定の適用を受けるものというべきである。
- 以上によれば、原告については、特定納入業者のうちいずれかに対して最初に本件各行為をした日を違反行為期間の始期である「当該行為をした日」と認め、全ての特定納入業者に対して本件各行為が行われなくなった日を違反行為期間の終期である「当該行為がなくなる日」と認めるべきこととなるところ、
- 原告は、役員等の指揮ないし関与の下、組織的かつ計画的に一連のものとして本件各行為を行ったものと認められるから、これらは「継続してするもの」(独占禁止法20条の6)に当たるというべきであるとともに、
- 「当該行為をした日」については、平成21年6月28日における同日の開店前準備作業のための従業員等派遣を行った日と認めるのが相当であり、
- また、原告が、平成24年12月5日の被告による立入検査を受けて、同月6日、原告の代表取締役から、商品部のバイヤー及び本社の課長級以上の者に対し、「今後、公正取引委員会に疑念を持たれるような行為が発生しないよう対策を講じること」等を説明し、同月17日、独占禁止法違反の疑いのある行為を取りやめていることや、独占禁止法に違反する疑いのある行為がないように社内に周知徹底した旨を記載した文書を、対象納入業者を含む各取引先に電子メールで送信し、通知したことが認められることからすれば、同日の前日である同月16日をもって「当該行為がなくなる日」と認めるのが相当である。
- そうであれば、違反行為があったとされる実際の期間は、平成21年6月28日から平成24年12月16日まで(本件期間)であるが、その期間が3年を超えるため、独占禁止法20条の6の規定を形式的に適用すれば、当該違反行為に係る同条に規定する期間の始期は当該違反行為の終期から遡って3年となる平成21年12月17日からとなる。
- もっとも、同条が適用されるのは、平成21年改正法の施行日である平成22年1月1日以降であるから(同法附則第5条)、その始期は同日となり、課徴金の算定の基礎となる原告の特定納入業者(69社)からの購入額の算定の期間は、同日から平成24年12月16日まで(本件違反期間)であって、施行令30条2項に基づき算出された本件違反期間における売上額(購入額)は、合計1192億2187万2931円と一致する。
担当裁判官
相澤哲裁判官、内田めぐみ裁判官、宇田川公輔裁判官
判決掲載媒体
金融・商事判例1688号40頁、判例秘書(L07820312)、ジュリスト1597号232頁(令和5年重要判例解説)
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