【国際取引/保険】 東京高等裁判所判決 令和4年3月24日

注目すべき争点

  • 外航貨物海上保険契約に適用される2009年ロンドン協会貨物約款における保険期間の開始時点

規範・あてはめ

  • 当事者
    • 原告(控訴人)は、自動車等の輸出入販売等を目的とする株式会社。
    • 被告(被控訴人)は、損害保険業等を目的とする株式会社。
  • 前提事実
    • 原告と被告は、平成28年9月23日、契約期間中に原告がスリランカ民主社会主義共和国(スリランカ)向けに輸出する全ての中古自動車を保険の目的物として、次の内容の包括予定保険契約である海上貨物保険契約(本件契約)を締結した。
      • 保険契約者・被保険者:原告
      • 保険金額:保険の目的物である中古自動車のCIF価額(目的物の価格、保険料及び運賃の合計額)の110%に相当する額
      • 保険期間:保険契約で指定された地の倉庫又は保管場所において、保険の対象となる輸送の開始のために輸送車両又はその他の輸送用具に保険の目的物を直ちに積み込む目的で、保険の目的物が最初に動かされた時に開始し、通常の輸送過程にある間継続する(本件契約に適用される,2009年協会貨物約款(A)(ICC)8条1項柱書。本件期間条項)。
      • 2009年協会貨物約款(A) 8条1項柱書原文:”this insurance attaches from the time the subject-matter insured is first moved in the warehouse or at the place of storage (at the place named in the contract of insurance) for the purpose of the immediate loading into or onto the carrying vehicle or other conveyance for the commencement of transit, continues during the ordinary course of transit”
    • 原告は、平成30年9月3日までに、係争自動車(26台)の所有権を取得し、平成30年9月4日より前に、係争自動車が所有権取得時に保管されていたそれぞれの場所(当初保管場所)から、神戸市東灘区(以下略)所在のAGHヤード(本件保税ヤード)に移動させた(本件移動)。
    • 係争自動車(26台)は、平成30年9月4日、台風21号による高潮によって損傷し、経済的価値の全部を喪失し(本件事故)、原告が被告に保険金を請求した。被告は保険期間の開始がないとして支払拒否。
  • 規範
    • 本件契約上、本件の保険対象となる輸送について、日本の港あるいは地点からスリランカの港あるいは地点までの輸送であり、承認された船舶とこれに接続する輸送手段による運送であると定義する規定が存在することが認められる。そして、本件期間条項において、「保険契約で指定された地の倉庫又は保管場所において、保険の対象となる輸送の開始のために輸送車両又はその他の輸送用具に保険の目的物を直ちに積み込む目的で、保険の目的物が最初に動かされた時に開始し、通常の輸送過程にある間継続」するとされている。そうすると、外航貨物海上保険契約である本件契約に係る保険期間は、仕出地である日本国内の倉庫又は保管場所において、日本からスリランカへの船舶による輸送とこれに接続する輸送手段による運送(本件契約上保険の対象となる輸送)、すなわち客観的にみて当該船舶による輸送と連続性のある輸送手段による運送(本件契約上保険の対象となる輸送)の開始のために、輸送用具に直ちに積み込む目的で、保険の目的物が最初に動かされた時に開始し、仕向地であるスリランカの港又は地点への通常の輸送過程にある間継続すると解するのが相当である。
    • 外航貨物海上保険契約である本件契約の保険期間の始期に係る本件期間条項の「保険の対象となる輸送」とは、船舶による輸送とこれに接続する運送をいい、貨物が船舶に積み込まれる前の陸上運送は、客観的にみて船舶による輸送と連続性がある場合に限りこれに該当すると解される。
  • あてはめ
    • 本件移動は、控訴人がオークションで取得した係争自動車を、オークションにおける保管場所から本件保税ヤードに陸上運送するものであるが、その時点では、スリランカに輸送する船舶の予約がされておらず、本件全証拠によっても、スリランカを目的地とする輸送であると認め得る客観的事情はうかがわれない。また、原判決別紙2のとおり、係争自動車が本件保税ヤードに搬入された時期や、搬入後の輸出に向けた諸手続の進行状況には差異があり、本件事故の時点で26台のうち6台は搬入後1か月以上が経過し、最長で4か月以上経過したものがあることに照らすと、係争自動車の取得から数日後の本件移動の時点では、輸出の時期や本件保税ヤードにおける保管期間は定まっていなかったと推認できる。
    • そうすると、本件移動は、控訴人がオークションで取得した係争自動車を引き取って自己が確保した保管場所に移す国内陸上運送とみるのが相当であり、控訴人において、本件保税ヤードに搬入してスリランカへの輸出に向けた手続を進める意思があったとしても、客観的にみて、本件移動をスリランカへの船舶による輸送と連続性のある輸送手段による運送と評価することは困難といわざるを得ない。
    • 保税蔵置場等への陸上運送であっても、本件のように、船舶による輸送との連続性が認められない場合は、外航貨物保険契約の保険期間は開始しない。

担当裁判官

渡部勇次裁判官、湯川克彦裁判官、澤田久文裁判官

判決掲載媒体

金融・商事判例1678号18頁

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