【労働】 東京地方裁判所判決 令和4年12月15日
注目すべき争点
被告の時季変更権の行使は適法か(=被告は鉄道事業を主たる目的とする株式会社であり、原告は被告との間で雇用契約を締結している車掌。原告の有給休暇の時季指定〔平成30年9月19日〕に対し、被告が時季変更権を行使したところ、原告において当該時季変更権の適法性を争った事案)
労働基準法
第39条(年次有給休暇)1 使用者は、その雇入れの日から起算して六箇月間継続勤務し全労働日の八割以上出勤した労働者に対して、継続し、又は分割した十労働日の有給休暇を与えなければならない。
5 使用者は、前各項の規定による有給休暇を労働者の請求する時季に与えなければならない。ただし、請求された時季に有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合においては、他の時季にこれを与えることができる。
規範・あてはめ
- 規範
- 労働基準法39条5項ただし書は、使用者は、労働者がした年休の時季指定に対し、その時季に休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合においては、他の時季にこれを与えることができると規定し、使用者の時季変更権の行使を認めている。
- 上記時季変更権行使の要件である「事業の正常な運営を妨げる場合」に該当するか否かの判断において、代替勤務者確保の難易は、その判断の一要素であって、特に、勤務割による勤務体制がとられている事業場の場合には、重要な判断要素であるというべきである。このような勤務体制がとられている事業場において、勤務割における勤務予定日につき年次休暇の時季指定がされた場合に、使用者としての通常の配慮をすれば、代替勤務者を確保して勤務割を変更することが客観的に可能な状況にあると認められるにもかかわらず、使用者がそのための配慮をしなかった結果、代替勤務者が配置されなかったときは、必要配置人員を欠くことをもって事業の正常な運営を妨げる場合に当たるということはできないと解するのが相当である(最高裁昭和62年7月10日第二小法廷判決・民集41巻5号1229頁、最高裁昭和62年9月22日第三小法廷判決・裁判集民事151号657頁参照)。
- そして、勤務割における勤務予定日につき年次休暇の時季指定がされた場合に、使用者としての通常の配慮をすれば代替勤務者を確保して勤務割を変更することが客観的に可能な状況にあったか否かについては、当該事業場において、年次休暇の時季指定に伴う勤務割の変更が、どのような方法により、どの程度行われていたか、年次休暇の時季指定に対し使用者が従前どのような対応の仕方をしてきたか、当該労働者の作業の内容、性質、欠務補充要員の作業の繁閑などからみて、他の者による代替勤務が可能であったか、また、当該年次休暇の時季指定が、使用者が代替勤務者を確保しうるだけの時間的余裕のある時期にされたものであるか、更には、当該事業場において週休制がどのように運用されてきたかなどの諸点を考慮して判断されるべきである。
- 上記の諸点に照らし、使用者が通常の配慮をしたとしても代替勤務者を確保して勤務割を変更することが客観的に可能な状況になかったと判断しうる場合には、使用者において代替勤務者を確保するための配慮をしたとみうる何らかの具体的行為をしなかったとしても、そのことにより、使用者がした時季変更権の行使が違法となることはないものと解するのが相当である(最高裁平成元年7月4日第三小法廷判決・民集43巻7号767頁参照)。
- あてはめ
- 平成30年9月19日について、本件時季指定時(=平成30年8月19日)において、原告に先んじて年休を申請して認められていた者が既に7名いたことに加え、社内行事や研修等による勤務割替が必要な者も5名いたことから、補充要員である予備循環6名全員が上記人員の勤務を担当する必要があり、また、W勤務についても労使間で定められた上限である6本全てを命じざるを得ない状況であり、W勤務により原告が本来担当する予定であった乗務系統「9152」を付加することができる勤務予定者もいなかったことが認められる。このような状況からすると、被告において、同日の勤務割について、同日の勤務予定者の中から原告の代替勤務者を確保することはできない状況であったと認められる。
- 以上によると、被告は、勤務割の中に予備循環を設けたり、W勤務を命じたりするなどして代替勤務者を確保していたところ、9月19日については、原告に先行して年休申請した車掌や社内行事のために勤務できない車掌がおり、原告に対して同日の年休を付与すると、確保していた代替勤務者を超える補充要員が必要となり、勤務割で確保された公休日の出勤回避やW勤務の上限の遵守といった、□□列車所において労使合意により実施されてきた取扱いに反しなければ、補充人員を確保できない状況にあったものということができる。これらの事情に照らすと、本件時季指定が1か月前にされたものであり、その間に使用者が通常の配慮をしたとしても、同日は、原告の代替勤務者を確保して勤務割を変更することが客観的に可能な状況にはなかったというべきである。
担当裁判官
横田昌紀裁判官、佐々木隆憲裁判官、植村一仁裁判官
判決掲載媒体
労働判例1299号20頁
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