【独禁】 大阪地方裁判所判決 令和5年6月2日
注目する争点
- 独占禁止法24条に基づく作為請求の可否
- 不公正な取引方法と市場確定の要否、及び、本件における市場の範囲
- 抱き合わせ販売等(一般指定10項)に該当するか
- 競争者に対する取引妨害(一般指定14項)に該当するか
事案の要旨・背景事情
事案の要旨
- 本件は、被告が販売するインクジェットプリンター用の純正品インクカートリッジに関し、使用済みの純正品を回収してインクを充填し、インク残量データを初期化するなどして再使用した再生品インクカートリッジを製造して「エコリカ」ブランドとして販売していた原告が、被告に対し、
- ①被告が平成29年9月以降現在まで販売している型番BCI-380及びBCI-381シリーズのインクカートリッジ(本件純正品)において、ICチップに記録されるインク残量データを初期化することができない仕様とするなどしたことが、独占禁止法19条により禁止される、同法2条9項6号所定の「不公正な取引方法」として昭和57年6月18日公正取引委員会告示第15号(一般指定)が規定する「抱き合わせ販売等」(一般指定10項)又は「競争者に対する取引妨害」(一般指定14項)にあたり、
- 被告がこのような不公正な取引を行った結果、原告は、本件純正品の再生品インクカートリッジ(本件再生品)を販売できなかったなどと主張して、
- 独占禁止法24条に基づき、本件純正品につきインク残量データを初期化して再使用することができない電子デバイス等を用いないことを求める(本件差止請求)とともに、
- ②このような不公正な取引は不法行為を構成するとし、この行為がなければ原告は本件再生品を平成31年4月以降販売できていたはずであり、原告が本件再生品1個あたり得ていたはずの利益50円に売上げ見込み個数を乗じると少なくとも3000万円の損害が生じていると主張して、
- 民法709条に基づき、損害の一部である3000万円及びこれに対する不法行為の後の日である本件訴え提起の日(令和2年10月27日)から支払済みまで民法(平成29年法律第44号による改正前の民法)所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律
第24条 第8条第5号又は第19条の規定に違反する行為によつてその利益を侵害され、又は侵害されるおそれがある者は、これにより著しい損害を生じ、又は生ずるおそれがあるときは、その利益を侵害する事業者若しくは事業者団体又は侵害するおそれがある事業者若しくは事業者団体に対し、その侵害の停止又は予防を請求することができる。
第19条 事業者は、不公正な取引方法を用いてはならない。
第2条9項 この法律において「不公正な取引方法」とは、次の各号のいずれかに該当する行為をいう。
六 前各号に掲げるもののほか、次のいずれかに該当する行為であつて、公正な競争を阻害するおそれがあるもののうち、公正取引委員会が指定するもの
イ 不当に他の事業者を差別的に取り扱うこと。
ロ 不当な対価をもつて取引すること。
ハ 不当に競争者の顧客を自己と取引するように誘引し、又は強制すること。
ニ 相手方の事業活動を不当に拘束する条件をもつて取引すること。
ホ 自己の取引上の地位を不当に利用して相手方と取引すること。
ヘ 自己又は自己が株主若しくは役員である会社と国内において競争関係にある他の事業者とその取引の相手方との取引を不当に妨害し、又は当該事業者が会社である場合において、その会社の株主若しくは役員をその会社の不利益となる行為をするように、不当に誘引し、唆し、若しくは強制すること。
一般指定
10(抱き合わせ販売) 相手方に対し、不当に、商品又は役務の供給に併せて他の商品又は役務を自己又は自己の指定する事業者から購入させ、その他自己又は自己の指定する事業者と取引するように強制すること。
14(競争者に対する取引妨害) 自己又は自己が株主若しくは役員である会社と国内において競争関係にある他の事業者とその取引の相手方との取引について、契約の成立の阻止、契約の不履行の誘引その他いかなる方法をもつてするかを問わず、その取引を不当に妨害すること。
当事者
- 原告は、被告が販売するインクジェットプリンター用の純正品インクカートリッジについて、インクを使い切った純正品を回収し、これに原告製造のインクを充填し、インク残量データを初期化するなどしてリサイクルインクカートリッジ(再生品)を製造して、「エコリカ」ブランドを付して販売する株式会社である。
- 被告は、事務機器及び光学機器等を製造販売する株式会社であり、被告のグループ会社全体を通じて、各種インクジェットプリンターに加えて、インクジェットプリンターに装着して使用する消耗品である純正品インクカートリッジを製造販売する株式会社である。被告は、国内インクジェットプリンター市場においては、セイコーエプソン株式会社と販売台数一位を争うインクジェットプリンターの2大メーカーのうちの1社である。被告は、本件純正品を製造販売している。
規範・あてはめ
争点1(独占禁止法24条に基づく作為請求の可否)
- 本件差止請求は、インク残量データを管理する方法として、インク残量データを初期化して再使用することができない初期化不能電子デバイスを用いないことを求めるものであるが、その履行のために、被告は、インク残量データを管理する方法として初期化不能電子デバイスではない何らかの電子デバイス等を用いることが想定されるなど、事実上、被告に作為を求める内容を含んでいるとみることができる。
- そこで、独占禁止法24条に基づく差止請求の内容として、作為を命じることもできるのかについて検討すると、
- 不公正な取引方法に係る規制に違反する行為には、作為による行為である場合のみならず不作為による行為である場合もあり、差止めの内容として作為を命じるべき実際上の必要性も存在するところ、事後的な金銭賠償に止まらず被害者の救済の一層の充実をも目的として設けられた同条の差止請求に係る制度の趣旨からすれば、その対象を作為による行為である場合に限定するものであるとは考えにくく、必要がある場合には作為を命じることもその内容に含んでいると解することが自然である。
- 「その侵害の停止又は予防を請求することができる」という同条の文理をみても、「予防」には積極的な作為による行為も含み得るなど作為を命じることを想定していないということは困難である。このような点に照らせば、独占禁止法24条に基づく差止請求の内容として、作為を命じることもできるというべきである。
- この点に関し、不正競争防止法3条2項や特許法100条2項では、「侵害の停止又は予防」のほか、明文で、物の廃棄や設備の除却その他の「侵害の停止又は予防に必要な行為」又は「侵害の予防に必要な行為」を請求することができる旨規定しているが、物の廃棄や設備の除却が通常想定されない独占禁止法の下での差止請求においてこのような規定が設けられていないとしても、同請求の内容として、作為を命じることを否定する趣旨であるとは解されない。
- したがって、本件差止請求が事実上被告に作為を求める内容を含んでいるとしても、本件差止請求の内容は、独占禁止法24条に基づく差止請求として許容されるものというべきである。
私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律
第24条 第8条第5号又は第19条の規定に違反する行為によつてその利益を侵害され、又は侵害されるおそれがある者は、これにより著しい損害を生じ、又は生ずるおそれがあるときは、その利益を侵害する事業者若しくは事業者団体又は侵害するおそれがある事業者若しくは事業者団体に対し、その侵害の停止又は予防を請求することができる。
不正競争防止法
第3条(差止請求権)
2 不正競争によって営業上の利益を侵害され、又は侵害されるおそれがある者は、前項の規定による請求をするに際し、侵害の行為を組成した物(侵害の行為により生じた物を含む。)の廃棄、侵害の行為に供した設備の除却その他の侵害の停止又は予防に必要な行為を請求することができる。特許法
第100条(差止請求権)
2 特許権者又は専用実施権者は、前項の規定による請求をするに際し、侵害の行為を組成した物(物を生産する方法の特許発明にあつては、侵害の行為により生じた物を含む。第102条第1項において同じ。)の廃棄、侵害の行為に供した設備の除却その他の侵害の予防に必要な行為を請求することができる。
争点2(不公正な取引方法と市場確定の要否、及び、本件における市場の範囲)
- 被告は、「抱き合わせ販売等」(一般指定10項)及び「競争者に対する取引妨害」(一般指定14項)のいずれについても、その成否を判断する前提として、競争が行われる場である市場の画定を行う必要がある旨の主張をする。
- しかし、独占禁止法は、私的独占、不当な取引制限及び不公正な取引方法を禁止するなどして、公正かつ自由な競争を促進しようとするものであるが、競争が行われる場である市場、すなわち「一定の取引分野」の画定の要否に関しては、上記の「私的独占」や「不当な取引制限」においては、これらにあたるというためには明文で「一定の取引分野における競争を実質的に制限する」ものであることが必要とされており(同法2条5項、6項)、競争の実質的制限の有無について判断するため、「一定の取引分野」の範囲を画定する必要があると解されるのに対し、
- 「不公正な取引方法」についてはこのような規定は設けられておらず(同法2条9項)、その文理からすると、「抱き合わせ販売等」や「競争者に対する取引妨害」を含む「不公正な取引方法」の成否の判断にあたって、必ず「一定の取引分野」の画定を必要としているものとは解されない。
- そもそも、「私的独占」や「不当な取引制限」についての規制は、個別の競争行為を妨げることそれ自体を防ぐというよりも、自由な競争を維持することによって競争の実質的制限がもたらされることを防ぐものである以上、競争が行われる場である市場、すなわち「一定の取引分野」の範囲を画定する必要があると解されるのに対し、
- 「不公正な取引方法」についての規制は、「取引方法」という文理からもみてとれるように、個別の取引方法に着目して、それが公正な競争秩序に対する阻害となるかという観点からされる規制であり(最高裁昭和46年(行ツ)第82号同50年7月10日第一小法廷判決・民集29巻6号888頁参照)、公正な競争が阻害されるおそれのあるものである以上、自由競争の減殺である市場閉鎖効果が生じるものに限られるものではなく、このような点に照らしてみても、「一定の取引分野」、すなわち市場の画定を判断の前提として必ず要求するものではないと解される。
私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律
第2条
5 この法律において「私的独占」とは、事業者が、単独に、又は他の事業者と結合し、若しくは通謀し、その他いかなる方法をもつてするかを問わず、他の事業者の事業活動を排除し、又は支配することにより、公共の利益に反して、一定の取引分野における競争を実質的に制限することをいう。
6 この法律において「不当な取引制限」とは、事業者が、契約、協定その他何らの名義をもつてするかを問わず、他の事業者と共同して対価を決定し、維持し、若しくは引き上げ、又は数量、技術、製品、設備若しくは取引の相手方を制限する等相互にその事業活動を拘束し、又は遂行することにより、公共の利益に反して、一定の取引分野における競争を実質的に制限することをいう。
- 前記のとおり、「不公正な取引方法」に係る規制である「抱き合わせ販売等」(一般指定10項)や「競争者に対する取引妨害」(一般指定14項)の成否の判断にあたって、一定の取引分野の画定は必ず要求されるものではないが、「不公正な取引方法」に係る規制は、公正な競争秩序に対する阻害となるかという観点からされる規制であり、公正な競争を阻害するおそれがあるか否かについては、競争手段の不公平さの有無のみならず、事業者相互間の自由な競争の減殺の有無や自由競争の基盤の侵害の有無という観点からも検討することになると解される。
- そして、このうち自由な競争の減殺の点に関しては、その競争の場である市場を一定の取引分野として想定することにより、自由な競争が妨げられているかどうか、競争への参加が妨げられているかどうかを判断することができる。
- このような観点から、本件における一定の取引分野(市場)の有無について検討すると、特定のプリンターには特定の仕様のインクカートリッジを使用する必要があり、特定の仕様のインクカートリッジは特定のプリンターに取り付けることでしか使用できないから、対応するプリンターを保有しないのにインクカートリッジのみを購入したところで印刷はできない。このように、インクカートリッジはプリンターの機能の一部を構成する部品としての要素を持つものではある。
- しかし、インクは、消耗品であるというその性質上、プリンターの耐久年数よりも先に枯渇するため、印刷というプリンターの機能を維持するためには、何らかの方法によってインクを補充する必要があり、インクカートリッジは、インクを補充するという目的で製造・販売・使用される独立性のある商品であるということができる。
- また、被告も、このような目的で、純正品インクカートリッジを、プリンター購入者を対象として、独立に、プリンターとは別の商品として販売し、そして、特定のプリンターに対応するインクカートリッジとして、被告による純正品のほか、再生品や互換品が競合し、インクカートリッジを販売する複数の事業者によって、その価格等についても能率競争が行われているところであり、このことは、本件プリンターに対応するインクカートリッジについても同様である。
- このような事情に照らせば、本件においても、本件プリンターに対応するインクカートリッジ(本件純正品を含む。)についての一定の取引分野としての独立した競争の場を観念することはできるというべきである。
争点3(抱き合わせ販売等〔一般指定10項〕に該当するか)
一般指定
10(抱き合わせ販売) 相手方に対し、不当に、商品又は役務の供給に併せて他の商品又は役務を自己又は自己の指定する事業者から購入させ、その他自己又は自己の指定する事業者と取引するように強制すること。
- 「抱き合わせ販売等」(一般指定10項)にあたるというためには、「商品又は役務の供給に併せて他の商品又は役務」を「購入させ」その他「取引するように強制する」ものであることが必要である。
- まず、本件純正品が本件プリンターとの関係で「他の商品」にあたるか否かについて検討すると、インクカートリッジはプリンターに装着されてはじめて使用できるものであり、プリンターの機能の一部を構成する部品としての要素を持つものではあるが、本件プリンターと本件純正品は別々に販売され、本件純正品のみでも購入することができるものであるほか、顧客は、本件プリンターを購入した後もこれを使用し続けるために本件純正品を含むインクカートリッジのみを本件プリンターとは別に購入することになると考えられるものであり、その価格も無償や無償に近いものではない決して低額ではない価格設定がされているものであることに照らせば、本件純正品は本件プリンターとは独立して取引の対象となっている別個の商品であるということができ、「他の商品」にあたるということができる。
- 次に、被告が本件純正品にインク残量データを管理する方法として初期化不能電子デバイスを使用したことが、本件プリンターの供給に併せて本件純正品を「購入させ」るものといえるのかについてみるに、ある商品を購入するに際し、客観的にみて少なからぬ顧客が「他の商品」(従たる商品)の購入を余儀なくされる場合には、当該「他の商品」を「購入させ」(一般指定10項)たと解すべきであり、これを事後に購入させる行為も含まれるというべきである。
- 【検討】 本件再生品は、本件純正品の再使用品(リユース)であり、被告製インクジェットプリンターを買った者の多く(約84%)は、再生品インクカートリッジの価格が相当程度安くても、再生品インクカートリッジがインクエンドサイン等の機能を有していても、なお純正品インクカートリッジを購入していたのであり、これらのようにインクエンドサイン等の機能とは別の考慮や要素に基づいて純正品を購入している者にとっては、上記機能が使用できなくとも、本件プリンターの購入に伴い本件純正品の購入を余儀なくされていたということはできない。
- 再生品インクカートリッジが純正品インクカートリッジより相当程度価格が安く、経済的合理性を有する商品である点を評価して再生品インクカートリッジを購入してきた者(1割程度の者)に着目してみても、家庭での利用が多いと考えられ、総体的に多くの枚数を印刷すると考えられるビジネス用途は限られており、本件再生品がインク残量表示をしないのみならず、インクエンドサインを出さず、インクエンドストップをしないとしても、再生品(再使用品)であることに伴うものであるとして、ノズルチェックパターンを印刷することなどにより代替可能であるとして、特段問題なく受け止めるものと考えられる。すなわち、純正品よりも廉価である本件再生品にとって、インクエンドサイン等は、付随的機能であり、一般的に備わっているべき機能であるとはいえないものである。
- この点、本件純正品が発売されるより前に被告が発売した純正品インクカートリッジには、インク残量データを初期化できない製品はなかったから、再生品インクカートリッジにおいてもインクエンドサイン等の機能が備わっていたと考えられ、このような再生品インクカートリッジを購入してきた者にとっては、本件再生品は相対的に機能が低下したものであると評価される可能性はある。しかし、あえて本件再生品を選択する者の多くは、価格が安いことを主要な理由に本件再生品を選択するものと考えられるのであって、インクエンドサイン等の機能の有無を選択の条件とすることは少ないものと考えられる。
- また、本件再生品を選択する者は、家庭での利用が多く、年賀状といった比較的多くの枚数を印刷する場合でも、廉価な再生品でありインクエンドストップをしないことを前提に、少量ずつ印刷し、印刷結果を目視確認することにより、インクエンドサイン等の機能の代替手段を執ることができる。そして、本件再生品の購入者は、このような代替手段を執ることにより、インクエンドサイン等を欠くことへの不具合を回避することができるのであるから、インクエンドサイン等を有するものの、価格の高い、本件純正品の購入を強いられるものと評価するのは困難である。
- このように、本件再生品がインクエンドサイン等の機能を有しなくても、本件再生品を購入する者にとっては、印刷に必要なインクを供給するというインクカートリッジの本質的な機能に大きな影響を与える問題であるとはいえず、被告が本件純正品にインク残量データを管理する方法として初期化不能電子デバイスを使用したことにより、原告がインクエンドサイン等の機能を有しない本件再生品しか製造販売できないとしても、本件プリンターの購入者が本件純正品の購入を余儀なくされているとまでいうことはできない。したがって、被告が、本件プリンターの供給に併せて本件純正品を「購入させ」たということはできない。
- また、不当性の有無という観点からみても、次のとおり、不当性があるとまでいうことはできない。
- インクカートリッジにおける本質的な機能は印刷に必要なインクを供給することにあって、インクエンドサイン等は、インクカートリッジにおける本質的な機能ではなく、印刷を円滑に行うための付随的機能の一つにすぎないものであるほか、あえて本件再生品を選択する者の多くは、価格が安いことを主要な理由に本件再生品を選択するものと考えられるのであって、インクエンドサイン等の機能の有無を選択の条件とすることは少ないものと考えられるのであるから、飽くまで再使用品である本件再生品において、インクエンドサイン等の機能が利用できない設計を採用することが競争手段として直ちに不公正であるとまでいうのは困難である。
- また、独立した競争の場における原告と被告との能率競争により本件純正品を含む被告製純正品インクカートリッジの価格が抑えられることがあったとしても、前記のとおりインクエンドサイン等の機能の有無を選択の条件とすることは少ないと考えられるほか、原告は一部であってもインクエンドサイン等の機能のない再生品インクカートリッジも販売していることなども考慮すると、インクエンドサイン等の機能の有無によって顧客の選択が左右され、本件再生品を選択する顧客が著しく減少し、自由な競争を減殺したりその基盤が保持されないとまでいうのも困難である。
- さらに、被告が本件純正品を開発するにあたり、初期化不能電子デバイスを採用し、その結果、再使用においてインクエンドサインが表示されず、インクエンドストップもしない設計としたことについては、被告は日本国外において印刷枚数を基準とする定額課金サービスを実施しているところ、〇〇〇といった不正行為を防止する意図もあったと考えられ(弁論の全趣旨)、原告による競合品発売を妨げる意図であったとは断じ難いものでもある。
- このような事情を考慮すると、不当性があるとまでいうことはできない。
- 以上のとおり、被告が本件純正品にインク残量データを管理する方法として初期化不能電子デバイスを使用したことが、「抱き合わせ販売等」(一般指定10項)にあたるということはできない。
争点4(競争者に対する取引妨害〔一般指定14項〕に該当するか)
一般指定
14(競争者に対する取引妨害) 自己又は自己が株主若しくは役員である会社と国内において競争関係にある他の事業者とその取引の相手方との取引について、契約の成立の阻止、契約の不履行の誘引その他いかなる方法をもつてするかを問わず、その取引を不当に妨害すること。
- 被告にとって原告が「国内において競争関係にある他の事業者」にあたるか否かについて
- 本件プリンターに対応するインクカートリッジについての独立した競争の場を観念でき、被告製のインクジェットプリンターに対応する純正品のインクカートリッジを販売する被告と再生品を販売する原告は、インクカートリッジの販売をめぐって競争していたということができるから、本件プリンターに対応するインクカートリッジを販売する者として、被告にとって原告は「国内において競争関係にある他の事業者」にあたるということができる。
- 被告が本件再生品を需要者に買わせないよう「妨害」したか否かについて
- 本件再生品は、本件純正品の再使用品(リユース)であり、本件プリンターを買った者の多くは、価格の安い再生品インクカートリッジが本件純正品と同様の機能を有するとしても、本件純正品を購入していたと考えられるのであり、被告が本件純正品に初期化不能電子デバイスを使用し、再使用においてインクエンドサイン等の機能が利用できない設計としたことをもって、直ちに被告が本件再生品を需要者に買わせないよう妨害したということは困難であるし、
- インクエンドサイン等の機能は、廉価である本件再生品にとって一般的に備わっているべき機能であるとはいえず、需要者にとっては、廉価である本件再生品の場合はノズルチェックパターンを印刷することなどにより代替可能であるから、この点においても、被告が本件再生品を需要者に買わせないよう妨害したということはできない。
- 不当性について
- 不当性の有無という観点からみても、前記で説示した事情と同様の理由により、不当性があるとまでいうことはできない。
- 以上のとおり、被告が本件純正品にインク残量データを管理する方法として初期化不能電子デバイスを使用したことが、「競争者に対する取引妨害」(一般指定14項)にあたるということもできない。
担当裁判官
谷村武則裁判官、三重野真人裁判官、小川紀代子裁判官
判決掲載媒体
判例秘書(L07850546)
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