【独禁】 東京地方裁判所判決 平成31年3月28日

注目する論点

  1. X農協は、組合員の事業活動を「拘束する条件」をつけて(一般指定12項)組合員と取引していたか
  2. 本件行為が「不当に」(一般指定12項)拘束する条件を付けた取引に当たるか

事案の要旨・背景事情

事案の要旨

  • 被告は、X農業協同組合が、自ら以外の者に「なす」を出荷することを制限する条件を付けて、その組合員からなすの販売を受託しており、これは不公正な取引方法(昭和57年公正取引委員会告示第15号、第12項)に該当し、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(独禁法)19条に違反するとして、平成29年3月29日、同組合に対し、同法20条2項に基づき、当該行為を行っていない旨を確認することなどを命ずる排除措置命令(公正取引委員会平成29年(措)第7号。本件命令)をした。
  • 本件は、X農業協同組合を吸収合併した原告が、本件命令には違反行為をした主体の認定に誤りがあり違法であるなどと主張して、被告に対し、本件命令の取消しを求める事案である。

私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律

第19条 事業者は、不公正な取引方法を用いてはならない。

第20条 前条の規定に違反する行為があるときは、公正取引委員会は、第八章第二節に規定する手続に従い、事業者に対し、当該行為の差止め、契約条項の削除その他当該行為を排除するために必要な措置を命ずることができる。
2 第7条第2項の規定は、前条の規定に違反する行為に準用する。
四 当該行為をした事業者から当該行為に係る事業の全部又は一部を譲り受けた事業者

X農業組合

  • X農業協同組合(X農協)は、高知県〈略〉の区域(X農協管内)の農業者によって組織された農業協同組合法に基づく農業協同組合であり、協同して組合員の事業及び生活のために必要な事業を行い、もってその経済状態を改善し、かつ、社会的地位の向上を図ることを目的とする法人である。
  • X農協は、なす等の園芸農産物の選果等を行うための施設として、各集出荷場を所有している。
  • これらの集出荷場では、農業者が、園芸農産物の集出荷業務の円滑な運営と生産農家の所得向上を目的とする生産者組織として、支部園芸部を組織しており、集出荷場ごとに、支部園芸部が存在する。

X農協の組合員

  • X農協の組合員数は、正組合員と准組合員を合わせて、平成28年3月31日時点で、個人が1万3523名、法人その他の団体が48団体であった。

X農協におけるなすの販売受託に係る状況

  • X農協は、X農協が所有する集出荷場に出荷されたなす等の園芸農産物の販売を受託している。
  • X農協は、販売を受託したなすの全量について、園芸農産物の販売流通等の事業を行っているC園芸農業協同組合連合会(園芸連)に対し、販売を委託している(X農協管内で生産されるなすにつき、集出荷場に出荷されX農協が販売を受託し、X農協が園芸連に販売を委託することを「系統出荷」という)。
  • 園芸連は、そのなすの販売を全国各地の卸売業者に委託している。

他の青果卸売業者におけるなすの販売受託に係る状況

  • X農協管内及びその周辺地域においては、X農協以外にも卸売市場を開設し、なすを集荷、販売する青果卸売業者(商系業者)が3社(株式会社D、株式会社E及び有限会社F。3社を併せて商系三者)存在する。
  • X農協管内の農業者は、商系業者になすの販売を委託することができ(農業者がなすを集出荷場に出荷せず、商系業者に販売を委託することを「系統外出荷」という)、商系業者は、そのなすを自らが開設する卸売市場において仲卸業者等に販売している。
  • 集出荷場の中には、敷地内に商系業者が集荷に用いる置き場を設けているところがあり、農業者はこの置き場になすを持ち込むことによっても、商系業者に対してなすを出荷することができる(農業者がこの方法でなすを商系業者に出荷することを置き場出荷)。

本件命令がなされる経緯

  • 被告は、
    • X農協が、かねてからなすの販売を受託することができる組合員を支部園芸部の支部員、又は、支部園芸部から集出荷場の利用を了承された者(支部員等)に限定していたところ、
    • 遅くとも平成24年4月以降、平成28年10月31日までの間に、支部園芸部から除名、又は、出荷停止等の処分を受けるなどした者からなすの販売を受託せず
    • あるいは支部員が集出荷場を利用することなく系統外出荷を行った場合には、支部園芸部が定めた系統外出荷手数料等を収受し、さらに、支部員の園芸連へのなすの出荷重量が一定水準を下回った場合には、支部園芸部が定めた罰金等をそれぞれ収受して、これらを自らの農産物販売事業に係る経費に充てて、なすの販売を受託していた
  • とし、この行為(本件行為)は、組合員の事業活動を不当に拘束する条件を付けて組合員と取引していたものであって、不公正な取引方法(昭和57年公正取引委員会告示第15号。一般指定)の12項に該当し、独禁法19条に違反する行為であるから、本件行為は既になくなっているものの、特に排除措置を命ずる必要があるとして、平成29年3月29日、X農協に対し、同法20条2項に基づき、本件命令をした。

私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律

第2条

9 この法律において「不公正な取引方法」とは、次の各号のいずれかに該当する行為をいう。

六 前各号に掲げるもののほか、次のいずれかに該当する行為であつて、公正な競争を阻害するおそれがあるもののうち、公正取引委員会が指定するもの
イ 不当に他の事業者を差別的に取り扱うこと。
ロ 不当な対価をもつて取引すること。
ハ 不当に競争者の顧客を自己と取引するように誘引し、又は強制すること。
ニ 相手方の事業活動を不当に拘束する条件をもつて取引すること。
ホ 自己の取引上の地位を不当に利用して相手方と取引すること。
ヘ 自己又は自己が株主若しくは役員である会社と国内において競争関係にある他の事業者とその取引の相手方との取引を不当に妨害し、又は当該事業者が会社である場合において、その会社の株主若しくは役員をその会社の不利益となる行為をするように、不当に誘引し、唆し、若しくは強制すること。

一般指定

12(拘束条件付取引) 法第2条第9項第4号又は前項に該当する行為のほか、相手方とその取引の相手方との取引その他相手方の事業活動を不当に拘束する条件をつけて、当該相手方と取引すること。

規範・あてはめ

争点1(X農協が組合員の事業活動を「拘束する条件をつけて」(一般指定12項)組合員と取引していたか)について

  • 一般指定12項にいう拘束があるというためには、必ずしもその取引条件に従うことが契約上の義務として定められていることを要せず、それに従わない場合に何らかの不利益を伴うことにより現実にその実効性が確保されていれば足りるというべきである(最高裁昭和46年(行ツ)第82号同50年7月10日第一小法廷判決・民集29巻6号888頁参照)。
  • 【X農協による本件行為が「拘束する条件をつけて」いたか】のあてはめ
  • X農協管内の支部園芸部の大半は、その規約において、支部員が支部園芸部の勧告を無視して系統外出荷を続けた場合には、除名又は出荷停止の処分をすることができる旨定めていた
  • X農協は、集出荷場への出荷以外の方法でなすの販売を受託し、園芸達に販売を再委託することはなかったところ、集出荷場を利用することができるのはおおむね支部員等のみであり、また支部員が支部員資格の停止処分を受けた際には、X農協の職員がなす自動選果機等の機械設備のタッチパネルからその者の氏名を消去し、その者が機械設備、ひいては集出荷場を利用することができないようにしていた
  • これらの事実によれば、X農協は、なすの販売を受託することができる組合員を集出荷場を利用することができる支部員等に限定しており、支部園芸部から除名又は出荷停止等の処分を受けるなどした者からなすの販売を受託しないこととしていたと認められる。
  • また、I支部、J支部、G支部及びK支部では、支部員が商系業者になすを出荷した場合に系統外出荷手数料を徴収することとしていたところ、X農協の職員が実際に系統外出荷手数料を徴収し、X農協の園芸雑収入の勘定科目に振り替え、X農協の場園芸担当職員の人件費やX農協が所有する集出荷場建物の固定資産税、減価償却費等に充てていた。
  • さらに、J支部及びG支部では、支部員の年間の系統出荷量が10アール当たり12トン又は11トンに満たない場合に罰金を徴収することとしていたところ、X農協の職員が実際に罰金を徴収し、X農協の園芸諸掛仮受金(年度末清算用)の勘定科目に振り替え、X農協が雇用する集出荷場の作業員の賃金や、X農協が保有する機械の保守修繕・減価償却費等に充てていた。
  • 上記各支部園芸部の除名等の制度、系統外出荷手数料や罰金の徴収は、系統出荷率を可及的に増加させることを目的としたものであるといえ、これがX農協の園芸販売事業の事業計画の重点実施事項に沿うものであることに照らせば、X農協は、なすの販売を委託しようとする組合員(農業者)をして、系統外出荷を理由に除名されるなどした者から委託を受けないという条件、系統外出荷を行った場合に系統外出荷手数料及び罰金を収受するという条件という、組合員がX農協以外の者になすを出荷することを制限する条件を付して、なすの販売受託をしていたというべきである。
  • したがって、本件において、X農協が、組合員の事業活動を「拘束する条件をつけて」(一般指定12項)組合員と取引していたといえる

争点2(本件行為が「不当に」〔一般指定12項〕拘束する条件を付けた取引に当たるか)

  • 一般指定12項にいう拘束条件付取引の内容は様々であり得るから、その形態や拘束の程度等に応じて公正な競争を阻害するおそれを判断し、それが公正な競争秩序に悪影響を及ぼすおそれがあると認められる場合に、初めて相手方の事業活動を「不当に」拘束する条件を付けた取引に当たるものというべきである(最高裁平成6年(オ)第2415号同10年12月18日第三小法廷判決・民集52巻9号1866頁)。
  • そして、市場における有力な事業者が、
    • 取引先事業者に対し、自己の競争者と取引しないよう拘束する条件を付けて取引する行為や、
    • 取引先事業者に対し、自己の商品と競争関係にある商品の取扱いを制限するよう拘束する条件を付けて取引する行為を行うことにより、
    • 市場閉鎖効果、すなわち新規参入者や既存の競争者にとって、代替的な取引先を容易に確保することができなくなり、事業活動に要する費用が引き上げられる、新規参入や新商品開発等の意欲が損なわれるといった、新規参入者や既存の競争者が排除される又はこれらの取引機会が減少するような状態をもたらすおそれが生じる場合には、公正な競争を阻害するおそれがあるというべきである。
  • 市場閉鎖効果が生じるか否かの判断に当たっては、具体的行為や取引の対象、地域、態様等に応じて、当該行為に係る取引及びそれにより影響をうける範囲を検討した上で、ブランド間及びブランド内の競争の状況、垂直的制限行為を行う事業者の市場における地位、当該行為の対象となる取引先事業者の事業活動に及ぼす影響、当該取引先事業者の数及び市場における地位を総合的に考慮して判断すべきである。
  • 【本件における市場閉鎖効果の有無に関するあてはめ】 本件において問題となるのはなすの販売受託取引であるところ、X農協管内からのなすの出荷重量は高知県全体のなすの出荷重量の約87.5%を占めており、高知県及びその周辺のなす販売受託業者がX農協管内以外の地域から十分な量のなすの販売受託を受けることは困難といい得る。
  • 加えて、なすが生鮮食料品であって、その生産者たる農業者が生産地から遠くの業者に販売を委託することが考えにくいことを合わせ考えれば、本件行為によって市場閉鎖効果が生じるかを検討する際には、X農協管内及びその周辺地域におけるなすの販売受託における市場閉鎖効果につき検討することが相当である。
  • X農協管内及びその周辺地域において農業者からなすの販売を受託する事業者は、X農協及び商系三者であるが、平成24年4月から平成27年3月までの間にX農協が園芸連から支払を受けたなすの販売金額は、同販売金額と商系業者が仲卸業者等に販売したなすの販売金額との合計のうちの4割以上を占めている。
  • その上、農業者は、X農協になすの販売を委託する場合にのみ、X農協の集出荷場を利用しX農協の従業員に選果・梱包をしてもらえるほか、指定野菜価格安定対策事業に基づく価格差補給金を受領することができることからすると、農業者にとってX農協は重要な取引先であって、X農協はその管内及びその周辺地域におけるなす販売受託の取引市場において特に有力な事業者であるといえる。
  • X農協管内には、平成28年7月末日時点でなす農家が1102名いるところ、そのうち632名がいずれかの支部園芸部の支部員であった。支部員のうち、系統外出荷を理由とする除名等の規定を規約に置いていた支部園芸部(K、J、I、H、M)に所属する者は551名、系統外出荷手数料を徴収していたI支部、J支部、G支部又はK支部に所属する者は445名、罰金を徴収していたJ支部又はG支部に所属する者は137名であって、本件行為の対象となる取引先事業者の数は相当数に上るといえる。
  • 加えて、前記のとおり、X農協のなすの受託販売金額のシェアが4割を超えていることからしても、X農協管内及びその周辺地域のなす販売受託の取引市場において、本件行為の対象となっている農業者が占める割合は大きいといえ、集荷するなすの大部分をX農協管内からの集荷に依存していた商系三者にとって、本件行為の対象となっている取引先事業者たる農業者の重要性が高いことがうかがわれる。
  • これに対し、上記の支部員数に鑑みれば、X農協管内のなす農家のうち概ね半数は本件行為による拘束を受けていない。しかし、個々のなす農家の収穫量はその所有する農地の面積等による制約を受けることは自明であって、商系業者が、本件行為による拘束を受けていないなす農家に依頼し、増産により出荷量を増やしてもらうなどの方法により、本件行為の拘束を受ける農業者の生産するなすの収穫量に代わる十分な量のなすを集荷し、取引機会を得ることは困難というべきである。
  • そして、本件行為に係る条件は、その性質上、農業者に対し、有力な事業者であるX農協へのなす販売受託ができなくなる事態を避けるべく、支部園芸部から除名等の処分を受けないよう、系統外出荷を行わず又は行うとしてもその量を抑制させるものであり、系統外出荷手数料や罰金の制度も、端的に経済的不利益を避けるべく系統外出荷量を抑制させる効果があるものであって、農業者が本来自由に決定すべき取引先の選択を制約するものであったというべきである。
  • 以上のとおり、高知県内のなすの9割近くという圧倒的多数を生産するX農協管内のなす農家のうち相当数の者に対し、上記のとおりの性質を有する本件行為による拘束が及んでいたことに加え、商系業者において、本件行為の拘束が及ばないなす農家から、これに代わる十分な量のなすを集荷することは困難と推認することができる。
  • そうすると、X農協の本件行為によって、集荷するなすのほとんどをX農協管内から集荷している商系業者にとっては、取引機会が減少するような状態がもたらされるおそれが生じた、すなわち市場閉鎖効果が生じたといわざるを得ない。
  • このことは、実際にも、商系三者がX農協の組合員に対してなすの出荷の増量や継続を依頼したところ、支部園芸部からの除名や罰金の対象となるおそれがあることを理由に断られたことがあることからも、裏付けられる。

担当裁判官

岩井直幸裁判官、吉岡正豊裁判官、太田慎吾裁判官

判決掲載媒体

判例タイムズ1437号88頁、判例秘書(L07430043)

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