【会社】 東京地方裁判所立川支部判決 令和4年9月9日
注目する争点
- 会社法833条1項1号に基づき、原告の被告に対する解散請求が認められるか
会社法
第833条(会社の解散の訴え) 次に掲げる場合において、やむを得ない事由があるときは、総株主(株主総会において決議をすることができる事項の全部につき議決権を行使することができない株主を除く。)の議決権の十分の一(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上の議決権を有する株主又は発行済株式(自己株式を除く。)の十分の一(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上の数の株式を有する株主は、訴えをもって株式会社の解散を請求することができる。
一 株式会社が業務の執行において著しく困難な状況に至り、当該株式会社に回復することができない損害が生じ、又は生ずるおそれがあるとき。
二 株式会社の財産の管理又は処分が著しく失当で、当該株式会社の存立を危うくするとき。
2 やむを得ない事由がある場合には、持分会社の社員は、訴えをもって持分会社の解散を請求することができる。
事案の要旨・背景事情
事案の要旨
- 本件は、被告の株式の半数を保有する株主である原告が、会社法833条1項に基づき、被告の解散を求めた事案である。
当事者等
- 被告は、電気製品の製造及び販売、並びに、電気部品の販売を目的とする株式会社であり、その発行済株式の総数は100株である。
- 被告の株主は、被告の代表取締役(被告代表者)と原告であり、それぞれが、発行済株式総数及び議決権の各半数を有している。
- 被告の登記簿上、被告代表者のほか、被告代表者の子であるB及びCが令和2年10月22日に取締役に就任し、Dが平成29年6月19日に監査役に就任したとされているが、被告は、少なくとも遡って10年にわたり定時株主総会を開催しておらず、平成29年6月と令和2年10月の役員選任についても株主総会の決議がない。
- 被告は、原告の九州エリアでの業務拡大のため、昭和58年10月26日に設立され、原告が製造する電気製品の販売事業のみを営んできたが、被告代表者は、平成22年ころから、定款に記載のないアグリビジネスを被告の事業として展開すべく、研究・調査を行うようになった。
本訴と別訴
- 被告の売上高は、平成28年8月期には約8400万円、平成29年8月期には約9500万円あったが、平成30年8月期には約3900万円に減少した。
- 原告は、被告の売上高が減少した原因は、被告代表者がアグリビジネスに力を入れて原告製品の営業活動を積極的にやらなくなってしまったことにあると考えて、平成30年11月15日、被告に対し、専属代理店契約を平成31年4月1日で解消したいと申し入れ、令和元年8月9日、原被告間において本件覚書(それまで被告が唯一の事業として営んでいた原告製造製品の営業権利を原告に移管することに関するもの)が作成された。
- しかし、原告が、本件覚書は会社法が求める各手続(原告及び被告の株主総会決議及び取締役会決議)を欠いているとして、移管に伴う対価の支払を止めたため、紛争状態となり、被告は、令和2年5月、原告に対し、本件覚書に基づく債務の履行を求める訴訟(別訴)を提起した。
- 原告は、令和3年7月31日、被告に対し、本件訴訟を提起した。
規範・あてはめ
会社法833条1項1号にいう「業務の執行において著しく困難な状況」に至っているか
- 被告の株式は、被告代表者と原告がそれぞれ半数を保有しているところ、被告の定款に記載のないアグリビジネスを巡って被告代表者と原告の意見が対立し、また、被告代表者が代表取締役を務める被告と原告との間で別訴が現在も係属中であるなど、被告代表者と原告との関係は不和・対立の状況にあり、この膠着状態が容易に解消されることは見込めないことからすれば、被告において多数決原理に基づく重要事項の意思決定が不可能となっているものと認められる。
- よって、被告は、会社法833条1項1号にいう「業務の執行において著しく困難な状況に至」っているものと認めるのが相当である。
会社法833条1項1号にいう「回復することができない損害が生じ、又は生ずるおそれがある」状態か
- 原告製造製品の営業権利の移管を巡る原被告間の別訴が令和2年から現在まで係属中であり、被告においては、令和2年8月期以降、売上高がほとんどないし全くなく、令和3年8月期までの1年間で主たる資産である預金が1000万円以上減少していることに加えて、アグリビジネスの研究等を開始してから10年以上経った現在も販売には至っておらず、アグリビジネスの今後の事業展開の見通しは不透明であることに照らせば、令和3年8月期の被告の資産が6400万円以上ある一方で被告に借入れがないことを考慮しても、被告には、会社法833条1項1号にいう「回復することができない損害が生じ、又は生ずるおそれがある」というべきである。
会社法833条1項柱書の「やむを得ない事由」があるか
- 会社法833条1項1号の解散事由が認められる場合において、意思決定不能の状況を打開する必要性が、法人格を維持できない場合の社会的損失を回避する必要性を上回る場合には、特段の事情のない限り、同項柱書の「やむを得ない事由」があるものと解するのが相当である。
- これを本件についてみるに、原告の保有する被告株式を譲渡する目途は立っておらず、株主としての原告の正当な利益を保護するためには被告を解散する以外に打開策がないと認められる一方、
- 被告のアグリビジネスは販売に至っておらず、被告には令和3年8月31日現在で取引債権者や金融債権者もいないことに加えて、被告代表者としては、被告の法人格が維持できない場合でも、残余財産を元手に新たな会社を設立してアグリビジネスを行うことが可能であることなどからすれば、
- 本件において、意思決定不能の状況を打開する必要性が法人格を維持できない場合の社会的損失を回避する必要性を上回っているものと認めることができ、上記特段の事情を認めるに足りる証拠はない。
- よって、本件では、会社法833条1項柱書の「やむを得ない事由」があると認めるのが相当である。
- なお、被告は、被告の運営につき協議すら行われていない以上、最終手段である会社解散請求が認められる「やむを得ない事由」は存在しないと主張するが、本件では、既に述べたとおり、対立膠着状態が容易に解消されることは見込めない以上、協議が行われていないことは上記認定を左右するものではない。
担当裁判官
大須賀綾子裁判官
判決掲載媒体
金融・商事判例1674号35頁、判例秘書(L07731556)
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