【国際取引/請求異議/仲裁】東京地方裁判所判決 平成28年7月13日

注目すべき争点

  1. 確定した執行決定のある仲裁判断は、「裁判以外の債務名義」(民事執行法35条1項後段)に該当するか(=議論の実益は、「裁判以外の債務名義」に該当すれば、(当該裁判以外の債務名義の)「成立について異議」を主張できる

第35条(請求異議の訴え)

1 債務名義(第22条第2号又は第3号の2から第4号までに掲げる債務名義で確定前のものを除く。以下この項において同じ。)に係る請求権の存在又は内容について異議のある債務者は、その債務名義による強制執行の不許を求めるために、請求異議の訴えを提起することができる。裁判以外の債務名義の成立について異議のある債務者も、同様とする。

2 確定判決についての異議の事由は、口頭弁論の終結後に生じたものに限る。

  1. 争点1について「否定」の場合、確定した執行決定のある仲裁判断は、「確定判決」(民事執行法35条2項)に該当するか(=議論の実益は、「確定判決」に該当すれば、「確定判決についての異議の事由は、口頭弁論の終結後に生じたものに限」られる

規範

  • 争点1について
    • 原告は、本件仲裁合意が存在しないにもかかわらずされた本件仲裁判断は無効であるから、「裁判以外の債務名義の成立」についての異議事由(民事執行法35条1項後段)があると主張する。
    • しかし、同項後段が、「裁判以外の債務名義の成立」について、異議事由とすることを許した趣旨は、慎重な司法手続を経ていない種類の債務名義にあっては、その成立をめぐって争いを生じることがしばしばあり、これを裁判手続で審査する必要性が高いからである。
    • 仲裁判断については、裁判所に対し、仲裁判断の取消しの申立てをして、仲裁判断の成立に関する瑕疵を争うことができること(仲裁法44条)、仲裁判断の執行決定においても、仲裁合意の有効性や仲裁手続の適法性など、仲裁判断の成立に関して審理することが予定されていること(同法46条8項、45条2項各号)等に照らせば、確定した執行決定のある仲裁判断については、「裁判以外の債務名義」には該当しないというべきである。
    • よって、本件仲裁合意の不存在、本件仲裁判断の無効をもって、異議事由とすることはできないと解されるから、原告の主張は採用できない。
  • 争点2について
    • 原告は、本件契約書は、偽造されたものであり、同契約書に記載されている本件債権は発生していないから、「債務名義に係る請求権の存在」についての異議事由(民事執行法35条1項前段)があると主張する。そして、確定判決についての異議の事由は、口頭弁論の終結後に生じたものに限られる(同条2項)ところ、この「確定判決」に仲裁判断は含まれないと主張する。
    • しかし、同条2項が、異議事由を時間的に制限した趣旨は、請求権の存在が確定判決により、既判力の基準時である口頭弁論終結時をもって確定された以上、これより前に発生した事由については、債務者が、その存在を知っていたか否かにかかわらず、既判力の効果として主張し得ないとする点にあり、このような趣旨は、確定判決以外の債務名義についても、既判力を有する債務名義には妥当すると解すべきである。
    • そして、仲裁判断は、「確定判決と同一の効力を有する」(仲裁法45条1項本文)と明文で規定されており、既判力が認められていることからすれば、確定した執行決定のある仲裁判断は、民事執行法35条2項の「確定判決」に含まれ、同項の「口頭弁論の終結後」との文言は、仲裁判断の既判力の基準時である「仲裁判断がされた後」と読み替えられるものと解するのが相当である。
    • これに対し、原告は,民事執行法上、「確定判決」と「確定判決と同一の効力を有するもの」という言葉が使い分けられているところ、同法35条2項では、「確定判決」との言葉が用いられていること、平成15年の仲裁法の制定に伴い、新たに民事執行法22条6号の2を設けて「確定した執行決定のある仲裁判断」を債務名義のひとつとして加えたが、同法35条2項の文言は、そのまま維持され、「口頭弁論の終結後」という確定判決を想定した文言を使っていることから、同項にいう「確定判決」とは、同法22条1号の「確定判決」のみを意味し、「確定した執行決定のある仲裁判断」は含まれないと主張する。
    • しかし、仲裁法の制定以前から、民事執行法35条2項の「確定判決」には、「確定判決と同一の効力を有する」もの(例えば、旧破産法における債権表)も含まれ、その場合、「口頭弁論の終結後」についても基準時後(例えば、債権が債権表に記載された後)と解釈されていたことからすれば、仲裁法の制定に際し、民事執行法35条2項の文言を改める必要はないと解されたものと考えられること、仲裁法の制定に際し、仲裁判断に既判力が生じることを前提に、その基準時がいつになるかという点について議論されていたことに鑑みれば、原告の上記主張は形式的な文言解釈にとどまるものであり、採用できない。

担当裁判官

平田豊裁判官、宮島文邦裁判官、野田翼裁判官

判決掲載媒体

判例タイムズ1437号200頁

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