【租税】 東京地方裁判所判決 令和2年1月30日
注目する争点
本件役員給与には法人税法34条2項に規定する「不相当に高額な部分」があるか
事案の要旨・背景事情
事案の要旨
- 自動車の輸出入事業等を目的とする内国法人である原告は、
- 平成23年7月期(平成22年8月1日から平成23年7月31日までの事業年度をいい、他の事業年度又は課税事業年度も同様に表記)から平成27年7月期までの各事業年度(本件各事業年度)の法人税、並びに、
- 平成25年7月期及び平成26年7月期の各課税事業年度(本件各課税事業年度)の特別復興法人税について、
- 原告の代表取締役の一人であるA(本件代表者)に支給した当該年度に係る給与(退職給与以外のもの。本件役員給与)の全額を損金の額に算入して申告した。
- これに対し、春日部税務署長(処分行政庁)は、本件役員給与の額には法人税法34条2項に規定する不相当に高額な部分があり、同部分の額を損金の額に算入することはできないなどとして、平成27年12月11日付けで、原告に対し、
- 本件各事業年度に係る法人税の各更正処分(本件法人税各更正処分)、及び、これに伴う過少申告加算税の各賦課決定処分(本件法人税各賦課決定処分)、並びに、
- 本件各課税事業年度に係る復興特別法人税の各更正処分(本件復興特別法人税各更正処分。本件法人税各更正処分と併せて本件各更正処分)、及び、これに伴う過少申告加算税の各賦課決定処分(本件復興特別法人税各賦課決定処分。本件法人税各賦課決定処分と併せて本件各賦課決定処分)をした。
- 本件は、原告が、本件役員給与の額に不相当に高額な部分はないなどと主張して、被告を相手に、本件各更正処分及び本件各賦課決定処分(平成26年7月期及び平成27年7月期の法人税、並びに、平成26年7月期の復興特別法人税に係る各更正処分及び各賦課決定処分については、国税不服審判所長の裁決による一部取消し後のもの)の一部取消しを求める事案である。
関係法令
- 法人税法34条2項は、内国法人がその役員に対して支給する給与(役員給与)の額のうち不相当に高額な部分の金額として政令で定める金額は、その内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない旨規定する。
- そして、同項の委任を受けた法人税法施行令70条1号は、上記「不相当に高額な部分の金額」の判定について二つの基準を設け、
- その一方として、①当該役員の職務の内容、当該内国法人の収益及び使用人に対する給与の支給の状況、当該内国法人と同種の事業を営む法人でその事業規模が類似するもの(同業類似法人)の役員給与の支給状況等に照らし、当該役員の職務に対する対価として相当であると認められる金額を超えるか否かによって判定するものとし(同号イ。実質基準)、
- 他方として、②定款の規定又は株主総会等の決議により定められた役員給与の限度額を超えるか否かによって判定するものとし(同号ロ。形式基準)、
- 実質基準において相当な金額を超える部分、及び、形式基準において限度額を超える金額のうち、いずれか多い金額が、「不相当に高額な部分の金額」に含まれるものとしている。
原告等
- 原告は、平成9年9月11日に設立された、自動車等の輸出入等を目的とする株式会社(設立当初は有限会社)であり、マレーシアへの中古自動車の輸出を主たる事業としている。
- 本件代表者は、原告の設立以来、原告の代表取締役を務めており、また、原告の発行済株式の総数(株式会社への移行前は、出資口数の全て)を保有している。
- 本件各事業年度における原告の役員は、本件代表者、その妻である取締役B、及び、Bの妹である代表取締役C(本件訴訟における原告代表者)の3名であった。
規範・あてはめ
争点(本件役員給与には法人税法34条2項に規定する「不相当に高額な部分」があるか)について
- 法人税法34条2項は、内国法人がその役員に対して支給する給与(役員給与)の額のうち不相当に高額な部分の金額として政令で定める金額は、その内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない旨規定する。
- そして、同項の委任を受けた法人税法施行令70条1号は、上記「不相当に高額な部分の金額」の判定について二つの基準を設け、
- その一方として、①当該役員の職務の内容、当該内国法人の収益及び使用人に対する給与の支給の状況、当該内国法人と同種の事業を営む法人でその事業規模が類似するもの(同業類似法人)の役員給与の支給状況等に照らし、当該役員の職務に対する対価として相当であると認められる金額を超えるか否かによって判定するものとし(同号イ。実質基準)、
- 他方として、②定款の規定又は株主総会等の決議により定められた役員給与の限度額を超えるか否かによって判定するものとし(同号ロ。形式基準)、
- 実質基準において相当な金額を超える部分、及び、形式基準において限度額を超える金額のうち、いずれか多い金額が、「不相当に高額な部分の金額」に含まれるものとしている。
- 原告における本件代表者の職務の内容は、中古自動車販売業を目的とする法人において営業や販売を担当する役員について一般的に想定される職務の範囲内にあるとはいえ、原告の売上げを得るために本件代表者が果たした職責及び達成した業績は相当高い水準にあったということができる。
- しかしながら、
- 原告の収益が、本件各事業年度を通じて減少傾向にあり、
- 使用人に対する給与の支給額も横ばいないし緩やかな減少傾向にある中で、
- 本件役員給与は、これに逆行する形で急増し、原告の改定営業利益の大部分を占め、原告の営業利益を大きく圧迫するに至っており、その額の高さ及び増加率は著しく不自然であるし、
- 合理的な抽出過程により抽出された原告の同業類似法人である本件各抽出法人の役員給与の最高額と比較しても、その較差は合理的な範囲を超えるものとなっている。
- そして、このように不自然に高額な本件役員給与によって、原告が本件各事業年度において納付した法人税の額は、本来よりも大きく圧縮されることとなっているのであるから、原告が本件役員給与の全額を損金の額に算入したことにより、課税の公平性は著しく害されているというほかない。以上によれば、本件役員給与に「不相当に高額な部分」があることは明らかというべきである。
- そして、その部分の金額は、上記のとおり原告の売上げを得るために本件代表者が果たした職責及び達成した業績が相当高い水準にあったことに鑑み、当該調査対象事業年度における本件各抽出法人の役員給与の最高額を超える部分がこれに当たると認めるのが相当である。
- この点、被告は、その主位的主張として、本件役員給与のうち「不相当に高額な部分」に当たるのは、本件各抽出法人の役員給与の平均額を超える部分であると主張する。
- しかしながら、本件抽出基準等による原告の同業類似法人の抽出が必ずしも厳密な事業の規模ないし性質の同一性の要求の下にされたものでないことは、上記に説示したとおりであるところ、
- 原告の売上げを得るために本件代表者が果たした職責及び達成した業績等の本件における事情に鑑みると、上記の平均額を超える部分を全て「不相当に高額な部分」に当たるものとした場合、本件代表者の職務に対する対価として不相当と認めるべきでない部分が含まれることになってしまうおそれがある。
- そうすると、上記のような本件の事情の下では、本件各抽出法人の役員給与の最高額を超える部分をもって「不相当に高額な部分」に当たると認めるのが相当であるから、被告の上記主張は採用することができない。
担当裁判官
判例タイムズ1499号176号、判例秘書(L07530239)
判決掲載媒体
清水知恵子裁判官、松村悠史裁判官、松原平学裁判官
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