【国際取引/CISG】 東京地方裁判所判決 令和元年6月3日

注目すべき点(請求原因に争いがないため争点ではない)

  1. 国際裁判管轄
  2. 条約及び準拠法の適用
  3. 売買代金及びその遅延損害金の請求根拠
  4. 債務不履行に基づく損害賠償請求の根拠

規範・あてはめ

  1. 国際裁判管轄
    • 原告(売主)はスペインの株式会社であり、被告(買主)は日本の株式会社である。
    • 本訴訟は、
      • 法人たる被告の登記簿上の本店所在地が「日本国内にある」こと、及び、
      • 被告の「営業所」の「所在地が知れない場合」であったとしても、「代表者」の「住所が日本国内にある」ことから、日本の裁判所に国際裁判管轄権が認められる(民事訴訟法第3条の2第3項)
    • また、被告の登記簿上の本店所在地、及び、被告の「代表者」の「住所」が東京都葛飾区にあることから、原告は、東京地方裁判所に本訴訟を提起した(同法第4条第1項、第4項)
  2. 条約及び準拠法の適用
    • 原被告間で締結された売買契約は、「営業所が異なる国に所在する当事者間の物品売買契約」(CISG第1条第1項柱書)である。原被告の本店所在地であるスペインと日本は、いずれもCISGの締約国であり、CISGの条文を留保せずに批准している。
      • したがって、原被告間の売買契約にはCISGが直接適用され(CISG第1条第1項a号)、CISGが適用されない事項については、契約の準拠法が適用される。
    • 法律行為の成立及び効力に関する準拠法は、「最も密接な関係がある地の法」となるところ(法の適用に関する通則法8条第1項)、法律行為が「特徴的な給付を当事者の一方のみが行うもの」であるときは、「その給付を行う当事者の常居地法(その当事者が当該法律行為に関係する事業所を有する場合にあっては当該事業所の所在地法)」が「最も密接な関係がある地の法」と推定される(同法同条第2項)。
      • 原被告間の売買契約は、原告が被告に商品を引き渡すという「特徴的な給付を当事者の一方のみが行うもの」であるところ、原告の事業所はスペインにあることから、「最も密接な関係がある地の法」は、スペイン法と推定される。よって、本件売買契約の準拠法はスペイン法となる。
  3. 売買代金及びその遅延損害金の請求根拠
    • 原告は、被告に対し、商品(ショッピングカート72台、平成25年3月25日に原告の本社にて被告が指定した貨物利用運送事業者の下請業者に引渡実施)を、代金額1,044.29ユーロ、代金支払期限平成25年6月18日の約定で売り渡した。(CISG第31条(a)号)
      • CISG31条
        売主が次の(a)から(c)までに規定する場所以外の特定の場所において物品を引き渡す義務を負わない場合には、売主の引渡しの義務は、次のことから成る。
        (a) 売買契約が物品の運送を伴う場合には、買主に送付するために物品を最初の運送人に交付すること。
    • ところが、被告は、代金支払日を経過しても、現在に至るまで、売買代金を支払っていない(CISG第53条、第62条本文)
      • CISG53条
        買主は、契約及びこの条約に従い、物品の代金を支払い、及び物品の引渡しを受領しなければならない。
      • CISG62条
        売主は、買主に対して代金の支払、引渡しの受領その他の買主の義務の履行を請求することができる。ただし、売主がその請求と両立しない救済を求めた場合は、この限りでない。
    • 本件未払い代金については遅延損害金が発生し、その発生時期や利率については、スペイン法に従う(CISG第7条第2項、第78条)
      • CISG7条2項
        この条約が規律する事項に関する問題であって、この条約において明示的に解決されていないものについては、この条約の基礎を成す一般原則に従い、又はこのような原則がない場合には国際私法の準則により適用される法に従って解決する。
      • CISG78条
        当事者の一方が代金その他の金銭を期限を過ぎて支払わない場合には、相手方は、第74条の規定に従って求めることができる損害賠償の請求を妨げられることなく、その金銭の利息を請求することができる。
      • CISG74条
        当事者の一方による契約違反についての損害賠償の額は、当該契約違反により相手方が被った損失(得るはずであった利益の喪失を含む。)に等しい額とする。そのような損害賠償の額は、契約違反を行った当事者が契約の締結時に知り、又は知っているべきであった事実及び事情に照らし、当該当事者が契約違反から生じ得る結果として契約の締結時に予見し、又は予見すべきであった損失の額を超えることができない。
    • 本件未払い代金については、当事者間の利息に関する合意がないため、法定利息による(スペイン民法第1108条)。スペインの法定利息は、国家予算に関する法律によって年毎に決定されるところ(法律上の金利の変更に関する1984年6月29日法律24号第1条)、平成25年の法定利率は、年4パーセントである(2013年国家一般予算に関する2012年12月27日法律17号附則39第1条)。したがって、本件未払い代金について、代金支払日の翌日から各支払い済みまで、年4パーセントの遅延損害金が生じる。
  4. 債務不履行に基づく損害賠償請求の根拠
    • 原告及び被告は、原被告間で締結された全ての売買契約において、商品の引渡しに伴う運送費を全て被告が負担する旨合意した。しかしながら、被告は、運送費を支払わなかった。そのため、運送約款に基づき、荷送人である原告が運送人に対し運送費を支払うことになったので、原告は被告に内容証明郵便による通知を送付して運送費に関する金額の支払を請求した(CISG第61条第1項(b)号)
      • CISG61条1項
        売主は、買主が契約又はこの条約に基づく義務を履行しない場合には、次のことを行うことができる。
        (b) 第74条から第77条までの規定に従って損害賠償の請求をすること。
    • 本件支払金については、原告が被告に対してこれを請求した日の翌日である同年10月1日から遅延損害金が生じる(CISG第78条、スペイン民法第1108条)。平成29年のスペイン法定利率は、年3パーセントである(2017年国家一般予算に関する2017年7月27日法律3号附則44第1条)。

担当裁判官

高橋玄裁判官(単独)

筆者のコメント

  • CISGを適用した近時の裁判例です。
  • 請求原因に争いのない事案ですが、国際裁判管轄、条約・準拠法の適用、CISGの適用など、実際の事案において参考になると思います。

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